2006年採集記録


 この記事は、よい子の蟲だより№211(2006年12月31日)および№217(2009年4月5日)に掲載されたものを、一部加筆修正してアップしたものです。


■ 4月8日(土)・9日(日) 備後地方のギフ

 昨年、自力で見つけて2日で10♂採った福山市の「秘密のポイント」へ直行すると、すでに岡山ナンバーが1台停まっていた。うすうす聞いてはいたが、やはり多少は知られたポイントらしい。

 この日はまずまずの天気だが風が強く、ピークでは気温が上がらず寒くて仕方がない。車で待っていた雅恵が1頭見たと言うが、いっこうに飛びそうな気配がないので、10時には早々にあきらめて山を下った。

 こういう日は風を避けて麓の発生地ポイントを探すべきなのだろうが、実は昨年見つけたもう1か所のポイントを含め、今回目星を付けていた場所は、どういう訳か全部尾根やピークばかりだった。待ちに待ったシーズン開幕戦、準備万端のはずが、いきなり抜かりがあった。仕方なく昨年も探してnullだった福山市坊原へ立ち寄ったところ、運よく紅梅にギフが吸蜜に来ていた。付近を探すと、昨年は気付かなかったがすり鉢状の小さな谷に食草があり、結構良さそうな場所に思えた。

 昼からは尾道市の摩訶衍山(まかえんざん)方面へ転戦し、山麓の発生地で1♂を追加できた。

◇        ◇

 翌9日も、前日と同じ「秘密のポイント」へ直行。するとどうだ! すでに車が5台も停まっていて、他にもう1台が帰ろうとしていた。どこが「秘密のポイント」やねん。単なる「自力で見つけた有名ポイント」だった。アホらしくてすぐに転戦。

 昨日に続き摩訶衍山方面を探したが、この日は風は止んだものの今度は曇って日差しがなく、気温が全く上がらない。まずはほろ苦いシーズンの開幕となった。

[記録]4月8日(土) 同行者 雅恵

広島県福山市芦田町柞磨 ギフ 1♂

広島県尾道市原田町梶山田 ギフ 1♂

4月9日(日) 同行者 雅恵

広島県尾道市原田町梶山田周辺 ギフ null

 


■ 4月16日(日) 東濃地方のギフ(パート1)

 朝起きると天気予報が良くなっていたので、近場でまだ採っていない中津川市周辺へ行くことにする。

《旧福岡町御所平》

 少し前の「ゆずりは」に載っていた「湯之島ラジウム鉱泉(ろうそく温泉)」を目指して行ってみる。旧福岡町は両隣の恵那市や中津川市と比べると記録が少ない気がするが、「ろうそく温泉」周辺には雰囲気の良い雑木林がよく残っている。朝のうちは天気が悪くて気温が上がってこないので、下見のために適当に何か所か覗いてみると、濃淡はあるもののどこにでもカンアオイが見られた。

 そうこうするうち、立て続けに道路上にギフが飛び出してきたので車を停める。停めた場所は道の片側が崖で反対側は川が流れており、適当に入って行ける林とかがない。「こんな場所」とも思ったが、ギフがポツポツ出てくるので少し粘ることにする。

 しかし、あいにくすぐに曇ってしまって後が続かないので、その場に雅恵を残してフラフラと御所平方面へ探しに行った。ツツジの咲き乱れる山道など良さそうな場所を見つけたが、何せ1分照って30分曇る、という天気のためパッとしない。やっと2頭追加して計4頭となったところで、雅恵の待っている元の場所へ戻った。

私 「どう?」

雅恵「うん。あんまりパッとしないけれど、7頭かな」

私 「エエッー?!」

雅恵「あなたは、どうなの?」

私 「ボクちゃん、四っちゅうー」

これはヤバい。思わずふざけてごまかした。と、丁度その時、待望の日差しだ。

今度は暫く晴れそうだ。すると、待ってましたとばかりにギフが飛び出してきた。

私 「ちょっと、隣でやらせてもらっていいかな」

雅恵「ちょっとだけよ。もっとあっちへ行ってよ。私が採れないじゃない」

 内心「こんな場所」と思った場所が、どうやら一番いい場所だったようだ。すぐ道端が発生地のようで、羽化したばかりの個体がフラフラと路上に出てくる。

 30分後に再び曇ってジ・エンドとなるまでに私が7頭、雅恵が3頭追加、合計11対10で、辛くも私の逆転勝ちとなった。(相変わらずセコいねェー)

《旧蛭川村内理》

 曇っている間に旧蛭川村へ移動。車で流しながらあちこち探す。蛭川村は手ごろな感じの小さな丘陵がそこかしこに点在し、きっとかつては素晴らしいギフの楽園だったと思われるが、今は全体的に意外とよく耕されているうえに農道がやたら整備されていて、小さな丘陵がさらに細かく道路で寸断されている印象を受けた。

 どこにでもいそうで、ここは!という場所がなく、なかなか車を停められないでいた。 途中、ごく小さな雑木林の中を道路が横切った。雰囲気は良いが、あまりに狭いのと曇っていたので通り過ぎた。

 暫くしてようやく日が差してきた。躊躇なくさっきの雑木林へ戻ると、案の定、雑木林の縁をうろつくギフがすぐに目に飛び込んできた。狭いポイントだが、かろうじて雅恵とふた手に別れ、それぞれが再び曇るまででの30分間やった結果、今度は5対5のドローであった。

◇        ◇

 ところで、今日の雅恵はいやに手強い、と思ったら訳があった。

 実は、私が一昨年から2シーズン使っていたブルー・メッシュを、今シーズンから雅恵に譲ったのだ。 私がメッシュを使った場合、ギフの打率がそれまでの9割から9割5分ほどに上がった(←ちょっと自己評価甘めかな?)けれど、それ以上に尾突が飛ぶようになった。10頭に1頭くらいの割合で尾突が飛んでしまうのだ。これでは意味がないので普通のナイロンに戻し、代わりに雅恵にメッシュを使わせてみた。するとどうだ。効果てき面。打率が5割から一気に8割に跳ね上がり、今のところ尾突が飛ぶこともないようで、こうして私と十分張り合えるようになった。

 女房とメッシュは使いよう…???

[記録]4月16日(日) 同行者 雅恵

岐阜県中津川市(旧福岡町)御所平 ギフ 16♂5♀(内8♂2♀雅恵採集。♀はすべて未交尾)

岐阜県中津川市(旧蛭川村)内理 ギフ 9♂1♀(内5♂雅恵採集)

岐阜県中津川市(旧蛭川村)上一色 ギフ 1♀

 


■ 4月22日(土) 東濃地方のギフ(パート2)

 最近、旧坂下町で確実な記録が出ていることを知り、探しに行く。旧坂下町は04年にも探しに行ったが、その時は時間が十分なかったこともあり、惨敗。実は先週16日にも、旧蛭川村の採集を終えた後に様子を見に車を走らせている。

 この日は古い記録のある小野沢周辺を中心にかなり歩き回ったが、どこもスギやヒノキの植林が激しく、結局カンアオイさえ見つからなかった。

 ところで、どうして私がこんなに坂下町に執着を持つのか? それは正直自分でも少し不思議なのだが、実はこの日はもう一つ全然別の動機があった。何を隠そう、先週行った時に国道沿いで見つけた絶品の“五平餅”に誘引されて、2週続けて行ってしまったのだ。それは正に絶品。そこら辺のどこにでもある味噌ダレや醤油ダレではない、深いコクとマイルドな味わいの、何と“胡桃(くるみ)ダレ”である。 


 たかが五平餅。されど五平餅。五平餅のためにわざわざ中津川まで出かけるバカはいないだろうが、中津川へ行ったのならこの五平餅を食さないのはバカだ。真剣にそんなことを思う私は、ただのバカだろうか。

[記録]4月22日(土) 同行者 雅恵

岐阜県中津川市(旧坂下町)小野沢周辺ほか ギフ null

 


■ 4月28日(金) 部子山麓のギフ(パート1)

 部子山は福井県の山ギフの中にあって、孤立した個体群として注目されている。

 念のため、部子山は「へこさん」と読む(本当だって)。地元では「ペコちゃん」の愛称で親しまれている(ウソ)。

 地形図を広げると、予想外に大きな山塊で、標高1200-1300mの尾根筋に大きな牧場が横たわっている。最近かなり景気の良い記録が出ていることから、この牧場周辺に下からホイホイ上がってくる様子をまずは想像する。しかし、ほとんどの記録が4月20日前後と意外に早いので、山麓部にポイントがあるのは間違いない。ところが、山麓部には尾根筋に至る林道が3本もあり、いくら地形図とにらめっこをしても、私の実力では3本の内のどれと絞ることは困難であった。

 こうなれば行ってみるしかない。行くと決めたら行く日が待ち遠しくて、今年は残雪が多いからと思って辛抱して辛抱して、辛抱しきれなくなって、休暇を取って予定より1日早く出かけた。品行方正で公務員の鑑(かがみ)と誰も言ってくれないので自分で言っている私としては、思えば4月に有休を取ってギフを採りに行くのは93年に同じ福井県の杣山へ行って以来のような気がする(年に2度も3度もマレーシアへ行ったりするヤツが何言ってんだ、単に役所は4月が忙しいだけだろう。というご指摘は、正に図星でございます)。

 さて、行ってみると、あっ気なくポイントは判明した。しかも2本の林道を探して両方でポイントは見つかった。残るもう1本の林道は行っていないので不明だが、この分なら3本ともポイントがあるのかも知れない。ただ、2か所のポイントとも予想外に個体数は多くなく、三角紙が足らなくなるのでは、という心配は杞憂に終わった。

[記録]4月28日(金) 同行者 なし

福井県今立郡池田町部子山道 ギフ 9♂1♀(未交尾)

福井県今立郡池田町水海 ギフ 4♂2♀

 


■ 4月29日(土祝) 大野市佐開のギフ

 荒島岳西麓の佐開集落から林道を少し登った、小荒島岳の山腹にポイントはある。

 この日は好天ながらやたら風が強く、いちおう尾根に登ってはみたものの、予想を凌ぐ悪コンディションで、怖いほどの強風が吹き抜けていた。

 おまけに、尾根で見てはならない空恐ろしいものを見てしまった。アカマツの巨木の根元が大きくえぐられるように掘られていて、落ち葉が敷き詰められたように堆積している。アカマツの幹は地面と接する付近の樹皮が剥がれ、よほど重たい物が長い間こすりつけられたとみえ、表面がつるつるに磨かれたような状態になっている。初めて見るが、ツキノワグマのねぐらに相違ない。思わずハッと息をのんで、周囲に目を凝らした。恐怖のせいか、強風の吹き荒ぶ尾根全体が、ゴウゴウと不気味な唸り声を上げながら身もだえしているように感じられた。

 すぐに退散だ。こんな強風の中では、クマ避けの鈴なんて何の役にも立ちはしない。音も臭いも気配も、全部吹き飛んでしまう。

 しかし、幸か不幸か10mも下らないうちに、ブッシュの中を下から上がってくるギフと出くわしてしまった。蝶屋の悲しい性で、こうなると真っすぐ下るわけにもいかない。急斜面を横へ横へと流れて、例のアカマツから距離をとりながら考えた。「このコンディションでも上がってくるギフがいる。しかし、あの強風の尾根では、きっと手前できびすを返すはずだ」

 そこで、クマの恐怖と戦いながらも尾根の少し下で風の当たらない場所を探したところ、スギの植林の中で良さそうな場所を見つけた。スポット状に日が当たっており、風は当たらない。見通しも効いていて、件(くだん)のアカマツからもそこそこ距離があって何となく安心だ(←何の根拠もない安心感)。

 この場所に、期待通りギフは出てきてくれた。しかし、個体数は多くなく、そのうえいきなり横から出てきたり斜めから降ってきたりして、いくつか振り逃がした。急斜面で足場が悪いうえ、何といってもクマの恐怖の呪縛があって、どこか腰が引けている。夢中で追えないのだ。特に上へ逃げたヤツは探しに行けない。それでも粘って、なんとか5♂をゲットした。

 下で待っていた雅恵も2♂採っていた。雅恵のすぐそばで頑張っていた2人連れは、2人で1♂だけの様子で早々にあきらめて帰っていった。少し下で粘っていた人は全く見てもいないと言う。

 すごいじゃん。ということは、この日ポイントに入った5人の合計8頭中、7頭を我々夫婦で採ってしまった。得意満面で意気揚々と引き上げる途中、何だこんな所にもいたのか、というような場所でアスファルトの路上にふらっと出てきたギフを、スカッと気持ちよく振り逃がした。

 まだまだ未熟ですわ。

[記録]4月29日(土) 同行者 雅恵

福井県大野市佐開 ギフ 7♂(内2♂雅恵採集)

 


■ 4月30日(日) 部子山麓のギフ(パート2)

 せっかく有休を取って3連休としたのに、3日間とも晴れてくれると早くも3日目には行く場所がなくなってしまうのが情けない。結局、初日にいまいち満足できなかった部子山へ、今日あたりドッと出るのではないかと、淡い期待を抱いて舞い戻ってしまった。

 結果は初日と似たような成績で、鮮度も変わらず良好ということは、やはり残雪の影響でダラダラ発生しているのだろう。

 2か所のポイントのうち「部子山道」は明らかに採集圧がかかっており、この日は全部完品。もう1か所の「水海」は、2日間とも採集者には会わず、自分以外の採集圧はないと思われるが、初日が4♂2♀で2日後が9♂1♀で、むしろ2日目の方が多少鮮度が良いという不思議な結果だった。

[記録]4月30日(日) 同行者 雅恵

福井県今立郡池田町部子山道 ギフ 5♂3♀(内1♂1♀雅恵採集。♀はすべて未交尾)

福井県今立郡池田町水海 ギフ 9♂1♀(内1♂雅恵採集)

 


■ 5月3日(水祝)・4日(木祝) 富山県のサイシン食いのギフ

 今シーズンは「ゆずりは」ネタが多いのだが、これもその一つ。少し前に平村・上平村・利賀村のサイシン食いのギフが紹介されており、そこに載っていた地名を2日間かけて片っ端から攻めてみた。

 結果は、桜はとうに満開過ぎにもかかわらず、どこも残雪が多く、快晴のなか丸2日間探し回って4か所で4♂という貧果に終わった。サイシンはカンアオイと違ってこの時期まだほんの芽吹き程度の新葉のため、なかなか見つけづらい。結局、サイシンを見つけたのは上平村猪谷だけで、が、しかし、ここではギフは見つからなかった。逆にギフを採集した4か所ではいずれもサイシンは見つからず、いったいどこで発生しているのやら雲をつかむようであった。挙げ句は利賀村坂本で、残雪の下からカンアオイがのぞいているのを見つけてしまい、本当にサイシン食いなのだろうかと、前提そのものが揺らぐ始末であった。

 平村上松尾では、地表の半分以上を残雪が覆っているなか、地面を探すかのようによたよた飛んでいるギフを採集。なんだか季節も場所もよく読めないまま、スカッと五月晴れの2日間を、モヤモヤしたまま費やす結果とあいなった。

[記録]5月3日(水祝) 同行者 雅恵

富山県南砺市(旧平村)上松尾 ギフ 1♂

富山県南砺市(旧平村)入谷 ギフ 1♂

 

5月4日(木祝) 同行者 雅恵

富山県南砺市(旧平村)入谷 ギフ 1♂

富山県南砺市利賀村阿別当 ギフ 1♂

 


5月5日(金祝) 旧和泉村下山のギフ

 旧和泉村はどういうわけか一番下の下山が一番雪深く、少し上流の朝日や、さらに上の九頭竜湖まで行くとむしろ雪が少なくなる。4月28日の晩に九頭竜の国民宿舎に宿をとり、翌朝、大野の佐開に向かった時には下山付近はまだ残雪がびっしりあって、1週間後でもフライング気味と思われた。にもかかわらず、諸事情により6日後のこの日の挑戦となった。

 最近よく人が入っている荒島岳登山道のポイントは、この日でもまだ下から上までかなり残雪があったが、昨年私が見つけたこのポイントは、丁度雪が消えてまさに新緑が芽吹こうとしていた。フライングギリギリの感じだったが、何とか新鮮なギフが我々を出迎えてくれた。

[記録]5月5日(金祝) 同行者 雅恵

福井県大野市(旧和泉村)下山 ギフ 8♂(内1♂鳥食れリリース。5♂雅恵)


■ 5月6日(土) 勝山市法恩寺山林道の幻のギフ

 この日の法恩寺山林道は入口でゲートが閉まっていたが、目星を付けてあった標高711mの水準点まで雅恵と2人でハイスピードで歩き、1時間で着いた。

 絶対ここだ、ここに間違いない!と思ったから歩いたが、まさかまさか、もしかしてハズレ? 良さそうな伐採地はあるが、全体的に乾燥していてギフの気配はなく、食草もない。どうやら、まるで見当違いの場所へ来てしまったらしい。

「沢山採れてるって言うから頑張って歩いたのに、騙された!」

雅恵がぶつぶつ文句を言っている。文句を言う相手のいない私は、「ハズすことがあるから、たまに当たると嬉しいのさ」と自分に言い聞かせてはみても、せっかくの好天の1日を棒に振って何の手がかりもなくては、悔しいと言うより情けない。

 帰り道は足どりも重く、1時間半かけてトボトボ下ってくると、何と入口付近に採集者がいるではないか! 怒るよ、ここがポイントだったら。しかしそうではなくて、その採集者もポイントも分からぬまま下見に来ていただけだった。

[記録]5月6日(土) 同行者 雅恵

福井県勝山市法恩寺山林道 ギフ null

 


■ 5月21日(日) 旧和泉村俵谷のギフ

 俵谷は山ギフが世に出るきっかけとなった場所、いわば「山ギフ発祥の地」である。当時はギフがこんな山奥にいるとは誰も思わず、発見した人は最初はヒメギフだと思った、という逸話を聞いたことがある。この話に興味を持った私は、当時すぐに行ってみた。ところがその時は、入り口付近で大きな落石が道の真ん中に転がっているのを見て、ビビッて帰った。林道を奥まで詰めなければならないという思い込みもあり、当時は歩こうという発想は毛頭なかった。

 今回は初めから歩くつもりだった。予想通り、ほんの入口でひどい土砂崩れが林道をふさいでいる。ここで車を停めて身支度をしていると、何のことはない、もうそこをギフが飛んでいく。1頭目は不意をつかれて逃げられたが、すぐに2頭目、3頭目が現れて、歩く前から2♀ゲット。この分なら歩かなくても採れるのではと暫く車の周りで粘っていると、少し行きかけて待っている雅恵のブルーネットに何かくっ付いている。枯葉か? 違う。ギフがとまっていたのだ。何やら、のっけからとんでもない日になりそうでワクワクしてきた。

 入口付近はすでに♀の時期のようなので、予定通り林道を詰めて標高を稼ぐ。林道は凄まじく荒れており、多分復旧の見込みはない。途中、沢から出た大量の岩や石が道をふさいでおり、これをよじ登っているとガレ場の上をギフが飛んでいく。

「クモツキみたいなギフさんね」

雅恵の言葉が言い得て妙に感じられた。

 この日は採集しながらゆっくり歩いて1時間ほど奥まで詰めたが、濃淡はあるものの、入口から奥までギフは非常に多かった。ただし、熊も非常に多いようで、2度にわたって熊の警戒音を聞き、特に2度目は至近距離で警戒音を浴びせられ、腰を抜かしそうにビビッて逃げ帰った。昼前には早々に俵谷を後にした。

◇        ◇

 思えば和泉村へは一時期、足繁く通ったが、なかなか成果が得られず惨敗の連続だった。この日の俵谷の帰路、かつて血眼(ちまなこ)になって探索した「88か所ポイント」付近を通りかかった時だった。

「そこの右手の杉林で、やっとカンアオイを見つけたんだ。だけどギフは遂に1つも見なかったな」

助手席の雅恵に話しかけた正にその時、いきなり車の直前をギフ横切り、思わず急ブレーキをかけた。すぐに車を飛び出していったが、ギフの姿はない。付近をひと通り探し、あきらめて戻ろうとした時、私の車に絡まるように飛ぶギフがいた。もしかすると車台の下に巻き込まれていて、やっと這い出してきたのかも知れない。慌てて駆け寄ったが及ばず逃げられた。この後、少しだけ粘って4-5頭を目撃し1♂1♀をネット。しかし、明らかに時期が遅かった。

 かつて、和泉村のギフは珍だと勝手に思い込んでいた。実は元々こんなに多かったのだろうか? それとも採集者が入らなくなって増えているのか。はたまた今年は当たり年だったのか。とにかくこの日は多かった。

[記録]5月21日(日) 同行者 雅恵

福井県大野市(旧和泉村)俵谷 ギフ 38♂8♀(内15♂雅恵。2♂1♀リリース)

福井県大野市(旧和泉村)角野前坂 ギフ 1♂1♀(内1♀リリース)

 


■ 6月4日(日) 大多和峠のギフ

 超有名ポイントの大多和峠へ、今さらながら初めて行った。実は前日、旧河合村の万波方面へ行く林道が通じているらしいとの情報で打保まで行ったのだが、林道入口には当然のようにワイヤーが張られていて、いきなり行き場を失った。仕方なく付近を下見して回って昼から大多和へ行ったところ、意外にも大多和集落の少し上まで林道が開通していて、歩いても1時間強で峠まで行けそうなことを確認した。

 しかし、とはいえ前日は蝶屋とおぼしき車が10台ほど林道に停まっていたし、この日も9時前に歩き始めた時点で同じくらい停まっていた。この1週間晴天続きで、溜まっていたであろうギフは昨日入った連中があらかたさらえ、今日も峠のポイントは多分人だらけだろう。

 ところがどうしたことか、峠まで歩いても山菜採り以外誰にも会わない。峠に着くと、ギフはいっぱいいる。どうして? いいの? こんなにいっぱいいるよ? みんなどこへ行ったのかな? 全部採るまで戻って来ないで! 欲深ジジイの私もさすがに「誰もいないってことは、どこか他の場所にはもっとギフがいっぱいいるんだ」なんてことは一切考えなかった。

 しかし、世の中そんなに甘いはずがない。この日は朝から雲が多めだったのが、早くも11時頃にはすっかり曇って低調となってしまった。11時半を過ぎると気温も下がり始め、後ろ髪を引かれる思いで早々に峠をあとにした。

 ところが下り始めて間もなく、なんと薄日が差しているではないか。もう少し粘れば良かったと思っても、もう戻る気力はない。何となく満足と後悔が入り混じった気分で歩いていると、行きにはほとんど見なかったのに、林道上でポツポツとギフが飛び出してきた。30分ほど下った場所には明らかに発生地と思われるポイントもあり、帰り道で5♂2♀を追加できた。

 最後に蛇足ながら、今年は7月ラベルのギフの噂もささやかれる中、何を隠そう今さらながら6月ラベルのギフを初めて採った。

[記録]6月4日(日) 同行者 雅恵

富山県富山市(旧大山町)大多和峠 ギフ 21♂8♀(内4♂5♀雅恵)

岐阜県飛騨市(旧神岡町)大多和峠 ギフ 4♂(内1♂雅恵)

岐阜県飛騨市(旧神岡町)大多和 ギフ 3♂2♀

 


■ 6月10日(土) 平湯白谷のクモツキ

 この年は思いっきり残雪が多かったので遅めの時期を狙って出かけたが、さすがに少し遅すぎたようだ。そのうえ天気予報に騙されて、11時頃から30分間薄日が差したほかはずっと曇りで、じっとしているとかなり寒く感じられた。

 採集者は7-8人入っていたが、私の隣で頑張っていた人が薄日の差したこの30分間に2♀を仕留めた以外は、おそらく全員nullだったのではないか。それにしても、この人はよほどの天才か、さもなくば私と違ってよほど日頃の心がけの良い人だろう。後日、蟲だよりを読んでいて分かったのだが、この人こそは会員のtozawa氏であった。

 一番奥の滝からさらに上へ登った命知らずの連中もいたが、普通の人間はクモツキより命の方が大事なので、近寄らない方が賢明と思われる。非常にポピュラーなポイントではあるが、谷全体が落石の多い場所で、かなり危険と心得た方が良い。

[記録]6月10日(土) 同行者 なし

岐阜県飛騨市(旧上宝村)白谷 クモツキ null

 


■ 6月11日(日) 昭和の森のクロミドリ

 朝起きると昼だった。少し雨が降ったあと天気が回復してきたので、以前、蟲だよりにF.コンチュウスキー氏が紹介していた昭和の森のクロミドリのポイントへ行く。このポイントでは、前年6月12日、4♂の成果で味をしめている。

 もう雨の心配はないと思ったのに、猿投グリーンロードを走行中に雨が降り出し、着いたときには小雨ながら結構降っていた。雅恵を車に残して小雨のなかクヌギを叩いて回ると、クロミドリがふらふらと落ちてくる。しかし、梢も下草もびっしょり濡れていて、活動が不活発なために下草の根元に墜落してしまうようなヤツもいたりして、これを傷めずに採ろうと思うとなかなか始末が悪い。そのくせ30分ほどで雨が上がると、今度はいきなりビュンビュン飛んで止まらなかったりして、全く始末に負えない蝶である。

 梢がびしょ濡れのためネットを外して叩き、止まった場所を見定めてからおもむろにネットを装着して…、なんてことをモタモタやっていると、止まったはずの場所を見失ってしまい…。いつもながら要領の悪い自分にイライラがつのる。そこで、雨が上がった時点で雅恵を呼びにいき、雅恵にネットの付いた長竿を持たせて私が別の長竿で梢を叩き、止まった場所から目を離さないようにしながら雅恵からネットを手渡しで受け取って採る。この方法で少しは成果が上がった。

 前年はウラナミアカが多く、これが邪魔くさくてキレそうになったが、今年はウラナミアカの姿はあまりなかった。クロミドリは前年よりも観た数は多かった。

[記録]6月11日(日) 同行者 雅恵

愛知県豊田市(旧藤岡町)昭和の森 クロミドリ 4♂1♀

 


■ 6月17日(土) 伊那谷のキマルリ

 3年連続で伊那谷のキマルリへ行っているが、今年は南信濃村のメインポイントの梅畑が全部伐採されてしまい、壊滅。他の何か所かのポイントを覗いたものの、南信濃村では採れず。結局、いつも採っている天龍村のメインポイントで5♂採集した以外に成果はなかった。

[記録]6月17日(土) 同行者 雅恵

長野県下伊那郡南信濃村 キマルリ null

長野県下伊那郡天龍村 キマルリ 5♂(内1♂トラ)

 


■ 7月15日(土)-19日(水) クアンタンのアロパラほか(マレーシア)

 過去2回、ダンフォルディー狙いで訪れているクアンタンだが、6月から7月頃はキララシジミのベストシーズンと聞いていたので、今回はキララ狙いで訪れた。キララのポイントは以前と比べてかなり木が伐られてしまい、そのせいか今までで一番キララの数は少なく、寂しい結果に終わった。

[記録]7月16日(日)-18日(火)パハン州クアンタン(マレーシア) 同行者 雅恵

ネプトゥヌスホソバジャコウ 1♂1♀  メルタイズマ 1♂  カンダイナズマ 1♂(雅恵採集)

エレキノイデスキララ 4♂1♀  プロキシママダラキララ 1♀  マヤアンジェラルリシジミ 1♂1♀  アラコニアムラサキシジミ 2ex.(内1ex.雅恵)  アゲラスタスムラサキシジミ 7ex.(内3ex.雅恵)  ユーモルフスムラサキシジミ 2♂(内1♂雅恵)  等々、3日間で183頭採集。

 


■ 8月6日(日) 南島町古和浦のスミナガシ

 以前、蟲だよりにA井氏が紹介していたスミナガシが集まるクヌギ林の樹液ポイントだが、2005年は空梅雨のせいか樹液が出ておらず、2回行って1♂だけの惨敗。今年の梅雨は十分降ったはずなので、よもや前年の二の舞はないと思ったのだが…。なぜか今年もろくに樹液が出ておらず、結局1♀が飛来しただけだった。

 スミナガシごときで2年連続3回もコケて、このまま黙って帰るわけにはいかないだろう。そこで、いきなり“最終兵器”の登場である。こんなこともあろうかと思い、マレーシアで買ったベラカンを持ち込んでいた。最近これをオオイチに使って成果を上げている人がいると聞く。これを沢沿い仕掛け、ヒッヒッヒッと独りほくそ笑んだのだが…。結果は、まるで効果なし(←ただのバカ)。

 仕方なくあてもなく歩き回り、羽化したての1♀を偶然道ばたで追加。夕方にはピークに登り、山頂広場でテリを張る1♂を追加したのが精一杯だった。

 それにしても、たかだか標高差200mの登りと思って春先のギフの感覚で登ったら、とんでもなかった。真夏のこの時期、夕方とはいえまだ暑い盛り。日頃の運動不足とビール漬けでぷよぷよになった体からは、またたく間に滝の汗が流れ落ちる。息も切れ切れめまいがしそうで、途中でやめようかと思ったが何とかピ-クに辿り着き、何はともあれ1♂だけでも追加できて良かった。

[記録]8月6日(日) 同行者 雅恵

三重県南島町古和浦 スミナガシ 1♂2♀  ゴマダラチョウ 1♀ イシガケチョウ 2♂ 

アオバセセリ 1ex.  サツマシジミ 6♂

 


■ 8月11日(金) 中ノ湯上のオオゴマ

 安房トンネルが開通したことで、中ノ湯-安房峠の国道158号沿いは、ネットを持ってぶらつけるほど静かになった。とはいえ、時々車は通るし、立派なアスファルトの道路なので好採集地と呼ぶには程遠いが、道ばたのヒヨドリバナで時折、オオゴマシジミやコヒオドシが吸蜜している。

[記録]8月11日(金) 同行者 雅恵

長野県松本市(旧安曇村)中ノ湯上 オオゴマ 4ex.

 


■ 8月11日(金) 安房平下のベニヒカゲ

 安房峠や安房平付近には、遠目にはいかにもベニヒカゲに良さそうな草付があるように見えるのだが、近寄ってみるとどこも深いクマザサの笹原で、なかなかベニヒカゲにお目にかかれない。

 安房平を少し下った辺りで、皮肉にも道路の法面の草地という人工的な環境で、僅かばかりのベニヒカゲが発生していた。

[記録]8月11日(金) 同行者 雅恵

岐阜県高山市(旧上宝村)安房平下 ベニヒカゲ 7♂4♀(♀無紋3、白帯1)

 


■ 8月12日(土) 障子ヶ瀬の幻のベニヒカゲ

 乗鞍スーパー林道の中ノ湯-白骨間が閉鎖されてから数年が経つ。車が通らなくなったことが原因かどうかは分からないが、この日、全く人影がなくなった林道に、爆発的な数の蝶が発生していた。道の両側に咲くヒヨドリバナには、おびただしい数のアサギマダラ、クジャクチョウ、各種ヒョウモン、ヒメキマダラヒカゲなどが吸蜜に訪れていたほか、キバネセセリも異常発生と思えるほど多く、時期的に遅めのジョウザンミドリもそこかしこでテリを張っていた。信州の夏の高原は、どこもかつてはこんなだったろうか? 勝手に郷愁に浸りながら、これらの蝶を採集することなく、片道1時間半かけて障子ヶ瀬までベニヒカゲに会いに歩いた。

 障子ヶ瀬では2002年8月4日にベニヒカゲを観察しているが、この時は少し時期的に早かったせいか個体数は少なかった。2004年8月1日に出直した(この年は猛暑でかなり季節が進んでいた)が、まさかのnull。そこで、今度こそは慎重に時期を選んだつもりだった。

 障子ヶ瀬に着いて、ガレ沢を少し登ったところでアッと驚いた。遠目には気付かなかったが、何と残雪が1m位の厚みで沢の上に覆いかぶさっている。過去2回はこんなことはもちろんなかった。今年の記録的な残雪の多さはギフのシ-ズンで先刻承知だが、さすがにこの時期、すでに意識の中からとんでいた。何しろもうお盆である。地形図を確かめると標高1700m。昨日ベニが観られた安房平下のポイントは標高約1600m。教科書どおりなら標高の高い障子ヶ瀬の方が発生が早いはずなのだが、残雪の影響かどうかは不明だが教科書どおりとはいかなかった。

[記録]8月12日(土) 同行者 雅恵

長野県松本市(旧安曇村)中ノ湯-障子ヶ瀬  オオゴマ 3ex.  ベニヒカゲ null

 


■ 8月13日(日) 麦草峠のベニヒカゲ

 少し前に虫の会のY岡氏から「麦草峠にベニヒカゲはいるか?」というお尋ねのメールをいただき、「記録はあるがポイントは分からない」と返事をした。

 実は私自身、以前ベニヒカゲの時期に麦草峠を訪れたことがある。その時はあいにくの雨となり車で流しただけで終わったが、峠の西側には国道299号線沿いにいかにも良さそうな草地が点在していたのを覚えている。いくらなんでも国道沿いでベニヒカゲが発生していればすぐに有名になるはずで、見かけほど甘くないことは十分承知のうえだが、以来、無意識のうちに麦草峠のことを「宿題」として引きずっていたのだろう。Y岡氏のメールがきっかけで、行ってみたい気持ちが強くなった。

 実際に歩いてみると、国道沿いに点在する草地はいずれも小規模ながら環境としては良好に感じられたが、ベニヒカゲの姿はない。地形図を見ると大石峠の西方に大規模な草原が広がっているはずなので、これを目指して登山道を辿った。シラビソの深い針葉樹林を抜けて目の前に現れたのは、びっしりとはびこったクマザサ原。ベニヒカゲの気配は感じられなかった。

 この日歩いた麦草峠周辺は標高2100m超で、未だ夏の花が開花していなかった。ベニヒカゲどころかそもそも蝶の姿が極めて少なく、周辺を1時間半ほど歩いて、晴天の中、ヒキマダラヒカゲ2頭、大型ヒョウモン類3頭目撃のみという寂しさだった。

[記録]8月13日(日) 同行者 雅恵

長野県茅野市麦草峠 ベニヒカゲ null

 


■ 8月13日(日) 美濃戸のヤマキチョウ

 あまりの寂しさに、何でもいいから採って帰ろうと思い、何度も訪れている美濃戸のヤマキチョウのポイントに立ち寄る。阿弥陀岳登山道沿いのポイントは、以前はヤマキが優勢でスジボソは沢沿いなどの限定的な場所でしか観られなかったが、ブッシュがきつくなったせいか、それとも時期的な問題なのか、この日は登山道沿いで観られるのはほとんどがスジボソだった。

[記録]8月13日(日) 同行者 雅恵

長野県茅野市美濃戸(阿弥陀岳登山道) ヤマキチョウ 2♂2♀(内1♂雅恵)

 


■ 8月19日(土) しらびそ峠のベニヒカゲ

 かつてキベリ狙いで当地へ通ったころ、時々ベニヒカゲが観られたものの随分密度が低かった。キベリ狙いのため、ベニヒカゲには時期的に遅かったと思われる。そこで、この日はベニヒカゲに照準を合わせたつもりだったのだが、相変わらずこれでも少し遅かったかもしれない。

 それにしても、時期的な問題を差し引いても当地のベニヒカゲは少ない。この日も、やっとこさ1♂を観たのみで、これは時期的な問題よりも、環境の悪化による影響の方が大のように思われる。現地で会った同好者が、相当昔にはベニヒカゲはかなり多かったと教えてくれた。

 私が当地を訪れるようになったここ10数年の間にも、付近の環境は著しく変わってしまった。特に「ハイランドしらびそ」周辺は、亜高山帯にありながら、よくもこれだけ平気で山を削るものだと呆れるくらい、どんどん山を削っている。かつてミヤマシロチョウを産した付近は見る影もない。今回も、不要と思える立派な道路が「ハイランドしらびそ」の裏側に新たに造成されていて、そのために大きく山肌が削り取られていた。そのくせトイレが「環境保全のため有料」とは、人間のやっていることのバカさ加減には呆れて悲しくなる。

 

 この日、峠付近で初めてクツカケモンキを採集した。小学生のころ、子ども向けの図鑑に描かれているクツカケモンキに憧れて、近所の荒地を群れ飛ぶモンキチョウを夢中で採集したが、普通型ばかりだった。あれから40年近く、モンキチョウを見ればいつもそれなりに目を光らせてきたつもりだったが、遂に初めてクツカケを採集した。他人が見れば他愛のないバカげた話かもしれないが、私にとっては少年の日の憧れをやっとこの手に収めたようで、ただ純粋に嬉しかった。

 今こうしてわが身を振り返りつつ、しらびそ高原の乱開発ぶりに想いを馳せるに、やはり人間というものは、ただ純粋にバカなのかもしれない。しみじみそう思う。バカに罪はない。しかし、無知は罪である。

[記録]8月19日(土) 同行者 雅恵

長野県飯田市(旧上村)しらびそ峠  キベリ 2ex.  モンキチョウ(クツカケ型)1♂

 


■ 8月20日(日) 大門沢のベニヒカゲ

 連戦連負、あまりの貧果に、確実にベニヒカゲを観察できる場所をと思い、有名ポイントの八ヶ岳の大門沢にやって来た。この日の大門沢は幸いポイント周辺に同好者の姿はなかったが、その代わりベニの数も多いとは言い難かった。

 大門沢は、気が狂ったように砂防ダムが上へ上へと幾重にも幾重にも幾重にも新たに建設されていて、放っておくと赤岳の頂上直下まで行ってしまいそうだ。しかし、皮肉なことにこの日ベニヒカゲが観られたのは、砂防ダム上部に堆積した土砂に形成された草地という人工的な環境で、遠からぬ将来、これらはブッシュ化してベニヒカゲも姿を消すものと思われた。

[記録]8月20日(日) 同行者 雅恵

山梨県北杜市(旧大泉村)大門沢  ベニヒカゲ 11♂6♀(内5♂雅恵)

 


■ 10月7日(土) 浜北のミヤマシジミ

 友人に誘われて、久々に浜北大橋上流の天竜川河川敷へ行ってきた。当地は以前、シルビアシジミ、ミヤマシジミ、ウラナミジャノメ、クロコムラサキ、ツマグロキチョウ、ギンイチモンジセセリ等々、いつ行っても何かが適期で楽しい採集ができた。何年か前にはアオタテハモドキの発生が話題になったり、未発表ながらホシボシキチョウが発生していたという確かな情報もある。

 しかし、久々に訪れた当地は全体的に荒地化が進んだように見受けられ、ウラギンシジミやウラナミシジミばかりが目に付いた。どこにでもいる感じだったミヤマシジミとツマグロキチョウさえ、全く観られないという惨状。半ば涙目になって探し回り、夕方近くになってやっと友人がミヤマシジミのかたまっている場所を見つけ、ごく狭い範囲で8頭を採集した。

[記録]10月7日(土) 同行者 大阪のN氏、雅恵

静岡県浜北市中の瀬  ミヤマシジミ null(N氏 8ex.採集)

 


■ 12月27日(水)-31日(日) 年末恒例のランカウイ島(マレーシア)

 11回目のランカウイ島。その内、年末年始は8回目で、最近はほとんど「帰省感覚」で行っている。同じ場所にこれだけ通っていると、もう採るものがないだろうとよく言われるが、そうでもないところが熱帯の魅力、ジャングルの懐の深さである。しかし、今回11回目にして遂に「自己初採集」となる種がなかった。 

[記録]12月28日(木)-30日(土) 同行者 雅恵

アドニアベニボシイナズマ 1♂  シロシジミタテハ 1♀  シリンクスミツオシジミ 5♂  アムリタスソビキシジミ 3♂2♀  リブナチビキララシジミ 1♀ アニエ ラニセムラサキシジミ 1♂  等々、3日間で146頭採集。