2010年採集記録


 この記事は、よい子の蟲だより№229(2011年3月31日)及び №232(2013年1月31日)に掲載されたものを、一部加筆修正してアップしたものです。


 91年から毎年の採集記録をまとめて蟲だよりに報告しており、今回で記念すべき20周年を迎える。パチ、パチ、パチ。そこで、「20周年記念 マル秘ポイントマップ大公開!」なんて企画は全くありませんので、悪しからず。

 この年3月に、それまで13年間乗った愛車「スバル フォレスター ターボ」から「日産X-トレイル クリーンディーゼル」に乗り換えた。長距離がいっそう楽になり、燃費が格段に向上し、高速道路休日1,000円もあるので、今年こそは久しぶりの島根、備後、それにゴールデンウイークは初めての秋田遠征をと目論んで寝袋まで購入したというのに、4月の人事異動で土・日に交代勤務がある職場に異動になって連休が減ってしまい、結局、近場・日帰りのパターンが多くなった。 


■ 4月3日(土) 近場のギフ(パート1)

《 瀬戸市上之山町 》

 体調不良(寝不足・高血圧)と天候不良(低温・強風)のため昼まで寝ていたが、新車で出かけたくて仕方がないので午後から近場へ行く。

 まずは、蟲だよりに幾度となく登場している陶磁資料館裏の道。とりあえず陶磁資料館まで行けば分かるだろうと高をくくっていたが、行ってみて困った。陶磁資料館は予想外の大規模施設で棟がいくつもあり、どの棟の裏なんだか、どっちが裏なんだかサッパリ分からない。やっとこさ駐車場から階段を降りていく道を見つけて行ってみると、民家の裏の雑木林のようなところでギフが採れた。

 帰宅後、蟲だよりを調べてみると、「陶磁資料館裏の道」とは正反対の方向へ行ってしまったことが判明。でも、採れたからまずはよしとするか。

《 豊田市田茂平町(旧藤岡町田茂平) 》

 何を隠そう、地元名古屋で長年ギフをやっているのに、これまで一度も「キャラメルの丘」へ行ったことがない。多分あの辺りだろうと勝手な思い込みで行ったところ、ここでも場所が分からず困った。適当に入っていったところで採集者がいたので声をかけると、1頭採っていた。

 帰宅後、蟲だよりを調べてみると、またしても「キャラメルの丘」の反対側(北側)へ行ったことが判明した。

[記録]4月3日(土) 同行者 雅恵

愛知県瀬戸市上之山町 ギフ 1♂

愛知県豊田市田茂平町(旧藤岡町田茂平)ギフ null

 


■ 4月4日(日) 近場のギフ(パート2)

《 春日井市道樹山 》

 何を隠そう、地元名古屋で長年ギフをやっているのに、これまで春日井市ラベルのギフを採ったことがない。道樹山は春日井市といっても多治見市との市境なのであまり食指が動かなかったが、地形図をよく見ると、登山道は明確に春日井市側についている。それに大きな声では言えないが、何を隠そう(まだ何か隠してることがあるのか?!)、実は多治見市ラベルもまだ採ったことがないのだ。なにッー! 多治見も採ってない? 初心者か、お前は。

 という訳で、朝のうちにコソコソ道樹山に登って、アリバイ的に少しだけ採ってサッサと下った。いま流行りの山ガール2♀目撃。

《 多治見市桧峠 》

 桧峠はまさしく春日井と多治見の市境だが、峠から20-30m多治見市側へ行ったところでギフ1♂ゲット。せこく多治見市ラベルもついでに落として次へ転戦。

《 瀬戸市南山口町 》

 昨日、陶磁資料館裏の道へ行くつもりが反対側へ行ってしまったので、この日出直すことに。この近辺によく見られる矮性(わいせい)の松の多いやせ山で、あまりギフがいる雰囲気ではないように思えたが、ちゃんといた。

《 豊田市田茂平町(旧藤岡町田茂平) 》

 「キャラメルの丘」も昨日辿り着けなかったので、ここも出直す。現地着が1時半。この時間でまだ採集者が結構多かったが、1か所に集まって既にダベリングタイムの様子。どうやら午前中それぞれ他所へ行った帰りにここに集合し、サロンと化しているようだ。当方は当地は初めてなので、残念ながらサロンに参加している余裕はない。

 周辺は明るい雑木林で谷部はすり鉢状になっており、カンアオイがズクズクに生えていた。午後の日差しの中、ツツジを訪れる個体をいくつか観察。午後のギフは飛翔コースも飛び方も不規則で予測がつきにくく、意外にネットしにくい。そのうえ、時間を惜しんで昼飯を抜いたのが大失敗で、時ここに至ってエネルギー切れとなり、雅恵ともどもギフにもてあそばれて振り逃がしや振れず逃がしを連発した。

[記録]4月4日(日) 同行者 雅恵

愛知県春日井市道樹山 ギフ 4♂(内1♂雅恵採集)

岐阜県多治見市桧峠  ギフ 1♂

愛知県瀬戸市南山口町 ギフ 1♂1♀(内1♂雅恵採集)

愛知県豊田市田茂平町(旧藤岡町田茂平)ギフ 7♂

 


■ 4月10日(土) 湖北地方のギフ(パート1)

 2007年から滋賀ギフを始めたが、近年滋賀は極めて厳しいようで苦戦が続く。

《 西浅井町葛籠尾崎 》

 超有名産地だが、この際有名産地でも何でもとりあえず落としておこうと立ち寄ったものの、全く観もせず。周辺の桜は3-7分咲き。これでフライングということはなかろうが、好天の中、ギフどころかルリシジミ一つ観なかった。

《 高島市マキノ町石庭 》

 滋賀県内はいたるところでシカ避けの防護フェンスが張り巡らされている。この日の石庭は防護フェンスの手前と向こう側とで、あまりの景色の違いに目を疑った。フェンス手前はカタクリ満開、桜は7分咲きで間もなく春爛漫の気配なのに、向こう側は一見まだ早春のように感じられる。よく観ると、木々は芽吹いているのに地面に緑がない。カタクリは株が貧弱で、花どころかまともに蕾が付いていない。これは季節が遅れているのではなく、鹿の食害によるものと考えられる。

 結局、フェンス手前ではギフ1♂のみ。ここは元々狭いポイントで多くは望めない。フェンス向こう側は有望と思われるが、カンアオイを含めて草本類がほとんどなく、それでもギフ1♂が飛来した。他の蝶も、好天の中をルリシジミ、トラフシジミ、スジグロシロ各1頭を目撃したのみという寂しさだった。

《 高島市今津町酒波ほか 》

 各所に良好な雑木林が残っており、前年からかなりあちらこちらを探して何か所かでカンアオイを見つけているが、この日もギフは観られず。カンアオイはどこも密度が低い。民家周辺にまでサルが出没する。

[記録]4月10日(土) 同行者 雅恵

滋賀県伊香郡西浅井町葛籠尾崎 ギフ null

滋賀県高島市マキノ町石庭 ギフ 2♂

滋賀県高島郡今津町酒波ほか ギフ null

 


■ 4月11日(日) 旧旭町浅谷のギフ

 朝、目を覚ますと天気が良くなかったので寝直し、昼前に起きたら晴れていた。あわてて出かけて現地到着が午後1時。そのせいもあってか得られたのは♀ばかり。それにしても、予想以上に季節が進んでいる印象を受けた。

[記録]4月11日(日) 同行者 雅恵

愛知県豊田市浅谷町(旧旭町浅谷)ギフ 3♀(内2♀雅恵採集。1♀未交尾)

 


■ 4月17日(土) 湖北地方のギフ(パート2)

 少しばかり日が差した時間もあったが、ほぼ終日曇天で低温。ただでさえ滋賀ギフは厳しいというのに、曇天・低温では勝負にならない。先週のリベンジのつもりがあえなく返り討ちに。各地でシカが非常に多く、キツネやノウサギなどとともに、住宅地のすぐ裏山にまで出没する。あらゆる草本が徹底的に食い尽くされている感があり、カンアオイは指先の爪ほどの小さな葉が散見されたのみ。

[記録]4月17日(土) 同行者 雅恵

滋賀県伊香郡西浅井町黒山 ギフ null

滋賀県高島市マキノ町石庭 ギフ null

滋賀県高島市マキノ町下 ギフ null

 


■ 4月25日(日) 福井県勝山市・大野市のギフ

《 勝山市横倉 》

 2万5千図を広げると、横倉集落上方の山腹に結構広い平坦地があり、付近を高圧線が走っている。これを眺めているだけで、ギフが群れ飛ぶ光景が目に浮かぶようでヨダレが出そうになる。もっとも横倉と言えば、言わずと知れた「88か所ポイント」。私が目星を付けた場所も、「88か所」で紹介されたポイントのすぐ目と鼻の先である。

 横倉集落(といっても残っている家は僅か1-2軒)の少し下からしっかりとした小径があり、登ること30分。目星を付けた平坦地は何と、古い水田跡だった。溜池まである。昔の人はよくもこんな山の上まで耕したものだ。もちろん道路などなく小径が通ずるだけで、全て人力で開墾し、毎日山道を片道30分かけて通って耕作したのだ。耕作放棄されてどれくらいになるのだろう。多分30年以上、もしかすると40-50年経っているかもしれない。今は暗い杉の植林となっているが、林床にはカンアオイが目につく。杉林が明るかったころは、相当数のギフが発生していたことだろう。

 杉林を抜けると広葉樹林が広がっており、高圧線が走っている。2か所の高圧鉄塔付近で良いポイントを見つけたが、やや盛期過ぎで鮮度としてはどうにかこうにかといったところだった。

《 大野町寺月峠 》

 寺月峠は前から地名は知っていたが、いつか行こうと思いつつ機会がなかった。無名ポイントと思いきや、いきなりいつもお世話になっているW氏夫妻がいて驚いた。少しして蟲の会のY氏もお出ましになった。なんだ、みんな知っていたのなら教えてくれたっていいじゃないか、人が悪いなあ。と、一瞬思ったが、よく考えたらそれは私も同じだった。

 峠付近の標高は530mで横倉のポイントと大差ないが、予想に反して寺月峠のほうが木々の芽吹きはむしろ進んでいて少しガッカリ。しかし、採集した4♂は運良くいずれも鮮度良好だった。野生のテンを目撃した。

[記録]4月25日(日) 同行者 雅恵

福井県勝山市横倉 ギフ 18♂1♀(内7♂雅恵)

福井県大野市寺月峠 ギフ 4♂

 


■ 5月1日(土) 小松市大山林道のギフ 

 大山林道は有名ポイントながら名古屋からだと意外に行きにくい位置にあり、これまで行きそびれていた。この日は翌日が勤務なので、行くなら日帰りで行かなければならない。しかし、最近の大山林道はあまり良い話を聞かないし、さらには記録の多くはゴールデンウイーク頃だが、標高からしてこの日では正直少し遅い気もする…。ーー 直前になって迷い始めた。迷ったときは行かないと後悔する。行けば何とかなる、とは限らないけれども、行けば何かが得られるものである。

 さて、実際行ってみて驚いた。期待した以上に数が多いのだ。あちこちにポイントが散在しており、広すぎて正直立ち回り方が難しいが、山全体での発生数はなかなかのものと思えた。もうひとつ驚いたのは、少し遅いかなとは思ったが、少しどころか丸っきり遅かった。およそ1週間から10日ほども遅い気がした。ゴールデンウイークの記録が多いのがあらためて不思議に思えた。

 すべては来年の宿題残り。本当に困ったことに、行っても行ってもなぜか行きたい場所が減らない。

[記録]5月1日(土) 同行者 雅恵

石川県小松市大山林道 ギフ 13♂(内3♂雅恵採集、ほかリリース多数)

 


■ 5月3日(月祝) 白山市白抜山のギフ

 白抜山へは麓の東二口の集落から立派な林道が付いているが、残念ながら入口でチェーンが下りていた。仕方なくアスファルトの林道をハイペースで歩き、約40分で標高700mほどの高原状地に着く。この付近一帯がポイントと予想したのだが、辺りは深い杉林のため残雪が多く、一方で、山全体としては日当たりが良いため、灌木帯はとっくの昔に雪が消えていて乾燥気味でギフの匂いがしない。

 当てが外れて当てもなくうろうろするうちに、灌木帯の中にぽっかり浮かぶように孤立した明るい杉林を発見。こういう場所は発生地になっている可能性があるし、ねぐらポイントになっている可能性もあるので、まずはチェック。すると、案の定というか意外にもというか、林床にサイシンが芽吹いていた。これをいったいどう理解したらよいのか? ただでさえポイントは分からない、季節はつかみどころがないのに、余計な情報が飛び込んできて混乱に拍車をかける。

 初心に帰り、あらかじめ地図上で目星を付けておいた小ピークを攻めることにする。ひどい藪漕ぎで悪戦苦闘。やっとこさ辿り着くと、やっぱりいた。「ほら見ろ。だから言っただろう。ちゃんといるじゃないかギフが。最初っからここを攻めれば良かったんだ」と、言いたいところだが、3♂ネットして3♂ともバシロ顔負けのポンポロウスバギフだった。日当たりの良い南向き斜面にカンアオイが自生しているのを、私はここで初めて見た。ここが発生地だとしたら、もしかして半月遅い? とすると適期は4月中旬? 混乱は増すばかりである。

 さすがに観念して、M氏から教えていただいたポイントへ向かう。ポイントを教えていただけるのはありがたいのだが、教えてもらったポイントで採っても原稿に書けないので何とか自力で探そうと、朝から悪あがきをしていたという訳である。

 ポイントに着くと、午後だというのに当然のようにギフがいた。しかも、標高を下げてきたのにむしろ鮮度は良かった。「ほらご覧。だから言ったでしょう。ちゃんといるんですよギフが。最初っからここを攻めれば良かったねー」と、M氏が笑っているような気がした。

[記録]5月3日(月祝) 同行者 雅恵

石川県白山市(旧尾口村)白抜山 ギフ 8♂(内2♂雅恵。他リリース多数)

 


■ 5月4日(火祝) 勝山市法恩寺山のギフ

 当地は前年は4月29日で盛期少し過ぎだったので、今年こそは早めの時期に慎重に狙いを定めた。この日は終日好天で気温がぐんぐん上がり、長野市はじめ全国各地で真夏日を記録。昼ごろには気温が上がりすぎたのかギフはあまり活動しておらず、そのせいか期待したほど数は出なかった。時期はバッチリ出始めですべて完品。標高870mから1300mまでカンアオイの自生を確認。前年は採集者が多かったが、この日は誰にも会わなかった。

[記録]5月4日(火祝) 同行者 雅恵

福井県勝山市法恩寺山 ギフ 9♂1♀(内1♂雅恵)

 


■ 5月5日(水祝) 富山県五箇山のサイシン食いのギフ

 五箇山のギフは、前年4月18・19日の両日、旧平村、上平村、利賀村で49頭の成果をあげてすっかり満足したはずなのに、もっと標高の高い場所にもいると聞いたらまた行きたくなった。

 普段、行動が制約されるので宿の予約は一切入れないことにしているが、前年宿泊した旧上平村の赤尾館が気に入ったので、少し高いがたまには家族サービスも、と思って連休前に予約を入れた。結果的にこれが裏目で、「ゴールデンウイーク史上初」とかいう5月1日から5日連続の好天で予想以上に発生が進み、微妙に時期がずれた。この日の2か所のポイントは、旧平村入谷が最盛期、篭渡は若干遅めでボロが混じった。

 入谷では、林道が残雪で塞がっていたため歩いて登る。30分ほど登り、林道が尾根を巻くところでギフが次々に上がってきた。しかし、まだ10時過ぎだというのに暑いくらいになってしまったせいか、すぐに飛来が止まる。他の場所を探そうと、来た道を50mほど戻ったところで残雪上に大きな動物の足跡を発見。

私 「見ろ。クマの足跡だ」

雅恵「ウッソー、どうして分かるのよ!」

私 「どうしてって、この大きさはクマしかないよ。まさか、ゾウはおらんやろ」

雅恵「よくもそんな冗談を言っていられるわね。怖いから早く帰ろうよ」

私 「ハハハ、大丈夫だって。だいぶ解けてるから、2、3日前のだろう」

雅恵「こんなに気温が上がっているから解けただけよ。ほら、隣にあるこの足跡、これ、行きに付けたあなたの足跡でしょう。ほとんど変わらないじゃない」

私 「……」

ヤバい。撤収だ。いつもは目がギフになっているこの私も、このときばかりは目をクマにして、♪スタコラ、サッサ、サ、のサー。スタコラ、サッサ、サ、のサー♪と、逃げ帰った…とさ。

[記録]5月5日(水祝) 同行者 雅恵

富山県南砺市(旧平村)入谷 ギフ 15♂(内6♂雅恵)

富山県南砺市(旧平村)大島 ギフ 2♂

富山県南砺市(旧平村)篭渡 ギフ 8♂(内3♂雅恵)

 


☞おすすめの宿 「五箇山温泉 赤尾館」

富山県南砺市西赤尾町396-1 電話(0763)67-3321 FAX(0763)67-3836

1泊2食付 11,550円から 五箇山Ⅰ.Cから国道156号を岐阜方面へ車で5分

採集の宿としては少々高いが、山菜、岩魚、五箇山豆腐などの食事は申し分なく、特に蕎麦が美味い。ご飯は赤米。風呂もきれい。目の前に重要文化財「合掌造り岩瀬家」。タカンボースキー場のポイントと、ブナオ峠への林道入口(ギフのシーズンは閉鎖中)が近い。

赤尾館公式サイト http://www.akaokan.com/onsen.html

 


■ 5月15日(土) 旧清見村のギフ

 久々に訪れたパスカル清見周辺は、昔と随分様子が変わってしまい少々戸惑った。往年の大原のポイントには親子連れの採集者がいたので遠慮し、背後の尾根に登る。杣道が途絶える辺りからサルが散見され、尾根に辿り着くとシカが多くて獣臭が立ち込めていた。私自身、これまで飛騨でシカを観た記憶がないので驚きだった。蝶はスギタニルリを少々と、ミヤマセセリ1♂を目撃したのみ。ギフは全く観ず。

 次に松谷へ転戦。一番奥の湿地はヒメカンアオイの新葉が開きかけていたが、ギフは気配なし。終日快晴の中、ギフどころか蝶という蝶が全て死に絶えたかと思うぐらい姿がなく、春爛漫の野辺にシロチョウ1匹、ベニシジミ1匹飛んでいない。4月の湖北地方では山の中で同じ現象が観られ、シカの食害を疑ったが、清見では耕作地周辺にも蝶がいないので、シカだけ悪者にしても説明がつかない。馬瀬川の清流はどこまでも澄みわたり、山には動物の姿があふれ、一見それは豊かな自然が保たれているように見える。しかし、その裏で、人知れず深刻な事態が進行しているような、私にはそんな恐ろしい予感がしてならない。

[記録]5月15日(土) 同行者 雅恵

岐阜県高山市清見町大原 ギフ null

岐阜県高山市清見町松谷 ギフ null

 


■ 6月6日(日) 昭和の森のクロミドリ(パート1)

 2009年の報告でも書いたが、当地のクロミドリはこのところなぜか♂がサッパリ採れなくなった。

<これまでの採集記録>    
2005年 6月 12日(日) クロミドリ 4♂
2006年 6月 11日(日) クロミドリ 4♂1♀
2007年 6月 10日(日) クロミドリ 1♀
2007年 6月 17日(日) クロミドリ 2♀
2008年 6月   8日(日) クロミドリ 1♀
2009年 5月 24日(日) クロミドリ null(フライング)
2009年 5月 31日(日) クロミドリ null(フライング)
2009年 6月   6日(土) クロミドリ 1♀
2009年 6月   7日(日) クロミドリ 1♀

 ご覧のとおり、2005年、2006年は♂が多かったが、2007年からパッタリ♂が採れなくなった。当時は♂の発生時期を逃したものと思い、2009年はフライング覚悟で5月中から通ったが、やはり♀しか採れなかった。 

 2007年、2008年当初の印象としては、クロミドリの個体数が激減したと感じた。この両年は毛虫が異常発生しており、クヌギを叩くと毛虫がネットにベタベタくっついてくるありさまで、このこととクロミドリが激減したことが何らか関係があるのではないかと疑った。しかし、2009年には毛虫の異常発生が納まったものの、クロミドリの個体数は回復しなかった。 

 今こうしてデータを並べてみると、明らかにフライングだった2回を除けば♀はほぼ毎回1頭ずつ採れていることに気づく。これは、♀の個体数は結構安定しているということを意味するのではないのか。 

 そこでようやく気がついた。これは決して個体数が激減したのではなく、単に♂が採れなくなっただけと考えるのが正解なのではないか。つまり、いつの間にかクヌギの樹高が伸びて、長竿が届かなくなったために♂が採れなくなったと考えられる。当地は大まかに2か所ポイントがあるが、私がメインに調査している手前のクヌギ林は明らかな植林で樹高が一定に揃っている。2005年に初めて行ったときの印象としては、クロミドリの発生地としてはかなり若いクヌギ林だと感じた。クヌギは毎年少しずつ伸長するため、毎年見ていると樹高が高くなっていることに気づきにくい。この間、私は同じ7mの磯玉を使用しており、いつの間にか木が高くなって♂がテリを張る高さに届かなくなったのではないだろうか。

 そこで対策として、「10mの竿を購入する」というのが並みの人間の考えるところだろうが、そうはしないのが私の非凡なところ ーー ではなくて、長竿の技術にコンプレックスを持つ私としては、きっと10mの竿は使いこなせないので、高い金はたいても結局♂は採れないだろうと考えた。(要はヘボいうえにケチなだけ。)

 そこで全く別な手段に打って出た。早朝を狙ったのだ。高校生のころ、香嵐渓の巴川河畔のクヌギ林で早朝クロミドリが下草に降りているという話を聞いた。行きたくて行きたくて仕方がなかったが、バスと電車を乗り継いで行くと早朝に着くことなど叶うわけもなく、悔しい思いをした覚えがある。その後、クロミドリが日の出前後の薄暗い時間帯に活動することが知られるようになり、今やクロミドリの早朝活動性は常識となった。どうせならその時間帯に行って、薄暗いなか活動する様子をこの目で観てみよう。もしかすると夕方と違って低い場所に降りてくるかもしれない。

 しかし、この時期は年中で最も日の出が早く、名古屋の日の出時刻を調べてみると4時37分ときた。現場に4時には着いていたいと考えると、3時過ぎには家を出る必要がある。さすがに二の足を踏んだ。しかも当地はすぐそこまで新興住宅地が迫ってきており、薄暗いうちから変なオッさんがゴソゴソやっていると不審者と間違われて通報されそうだ。そこで、雅恵を巻き添えにしようと考えた。

私 「悪いけど、一緒に行かない?」

雅恵「イヤよ、そんなに早く。一人で行けばいいじゃない」

私 「オレが一人で行くとさ、不審者に間違われないかって、心配じゃない?」

雅恵「確かにこんなおじさんが薄暗いうちから一人でタモ持って歩いていたら、思いっきり不審よね」

私 「だろう。だから一緒に来て」

雅恵「絶対イヤ」

 昔と違って今は車があるので、早朝3時だろうが2時だろうが行こうと思えば何時にだって行ける。しかし今や、車がある代わりに根性がないので、結局のところ着いたのは5時半を回っていた。この時間で驚くほど陽が高く昇っていて辺りはすっかり明るく、ちっとも早朝なんかではなかった。普段、遅くまで仕事に追われて1時過ぎに寝たりしているのに、急に2時、3時に起きようったって、どだい無理というもの。

 それにしても、外はこんなに明るいのになんで皆まだ寝ているのだろうと、普段の自分を含めて現代人の生活がなんだかとっても不思議に思えた。

[記録]6月6日(日) 同行者 雅恵

愛知県豊田市(旧藤岡町)昭和の森 クロミドリ null

 


■ 6月13日(日) 昭和の森のクロミドリ(パート2)

 よせばいいのに先週のリベンジとかいって、嫌がる雅恵を再び口説いて一緒に出かける。今度こそ暗いうち着くつもりだったが、またしても車を運転中に日の出を迎え、5時過ぎに現地に着いたときにはすっかり明るくなっていた。日の出後30分も経ってしまえば、5時も6時もあんまり変わらないということを改めて認識した。

 先週に引き続き、この時間帯クロミドリはおろかそもそも虫の気配がほとんどない。唯一、林縁をヘロヘロと飛ぶシジミがいたのですくってみると、予想外のウラクロの♀だった。

[記録]6月13日(日) 同行者 雅恵

愛知県豊田市(旧藤岡町)昭和の森 ウラクロシジミ 1♀

 


■ 6月26日(土) 昭和の森のウラナミジャノメ

 昭和の森でウラナミジャノメが採れていることは少し前から聞いていたが、人に誘われたので行ってみた。3人で探したが、未発生なのかそれとも誰かがさらえたあとなのか、全く観られなかった。全体的に蝶影が極めて薄いと感じた。

[記録]6月26日(土) 同行者 2名

愛知県豊田市(旧藤岡町)昭和の森 ウラナミジャノメ null

 


■ 7月4日(日) 奇跡のヒサマツミドリ

 私自身、ヒサマツの成虫はこれまで通算1♂3♀の採集経験があるが、いずれもキリシマやルーミスの採集中に偶然採集したものであって、狙って採ったことは一度もない。しかも、すべて季節外れのボロである。

 ヒサマツ♂は発生地を遠く離れて尾根筋でテリを張ると言われているが、いったいどれくらい離れたところまで飛んでいくのだろう。ギフチョウのように♂の行動パターンが解明されれば、ヒサマツの成虫採集ももっと容易になるのではないか。最近インターネットで検索していると、ヒサマツの成虫写真によくお目にかかる。採集のヒントになるものはないかと探してみるが、当然のように撮影地は示されておらず、ひどいのは撮影日さえ記載がない。全ての写真が成虫のアップであり、生息環境を示すものは見当たらない。♂♀同じくらいの頻度で登場するので、きっと前述のような尾根筋のテリトリーポイントではないだろうと想像するだけで、これらの美しい写真や撮影時の苦労話の中には、ヒサマツの習性や生態について示唆するものは皆無と言ってよく、その意味で何の学術的価値もない。

 なーんて、他人のやっていることにケチをつけてばかりいないで、自分で探してみよう!と思い立ち、昨年、雅恵に向かって「5年以内にヒサマツの成虫を狙って採る」と宣言した。(1年、2年じゃなくって、5年ってところがいかにも人間が小さいねぇ、我ながら。)

 宣言してはみたものの、昨年は鈴鹿方面へ1回行っただけで何ら手がかりもなく、今年も6月中に鈴鹿山系や富山の神通川水系へ出かける計画だったが、天気予報が悪いとすぐに挫折する根性なしのため、何の行動も起こさないままヒサマツの成虫シーズンが今年も終ろうとしていた。

 そんな矢先、静岡県内の某所でヒサマツ成虫が採れているという情報が飛び込んできた。ポイントの詳細までは聞けなかったが、とある尾根筋に林道が走っており、その林道上にポイントがあるとのことだった。ーー これだけ聞けばとりあえず十分だ。

 当日は予報が外れて天気の回復が遅れ、午前中、件の尾根は雨こそあがったものの深い霧に包まれていた。それでも、まずはそれらしき場所に車を停め、とりあえず付近をあてもなく探索していた。正午ごろだった。急速に天気が回復して霧が晴れてきたので、あわてて車を停めた場所に戻って、びっくり。正にその場所に、長竿を持った人やらカメラを構えた人が既に2組陣取っており、私と同じようにあぶれたもう一人がその後ろで待っていた。ズバリ、この場所がポイントらしい。しかも、地元では既にかなり有名なようだ。

 あぶれていた一人は、この後すぐにいなくなった。そして間もなく、長竿の人が1♂を採集。見せていただくと、少しスレてはいるものの尾突は両方ともしっかりある。何と言ってもヒサマツの野外品である。多少のスレなど仕方ない。しかし、なぜかこの人はこの後すぐどこかへ立ち去った。そしてその後、予想だにせぬ展開が私を待っていた。カメラの二人連れが、「みんなボロばっかりだから帰りますわ。よかったらどうぞ」と言って、見ず知らずの私にポイントを譲ってくれたのだ。かくしてポイントには、私たち夫婦以外誰もいなくなった。時刻はまだ12時45分であった。

 譲っていただいたポイントに立つや否や、いきなり目の前にヒサマツが現れた。目の前の木の周囲を敏速に飛び回りながら止まる場所を探しているようだったが、止まることなく行ってしまった、と思った次の瞬間、すぐ向こうの潅木上で卍飛翔が始まった。何と3段で届く位置。難なくゲット。1頭はボロのためリリースしたが、もう1頭は十分綺麗な個体だった。そしてこの後、夢のような展開が私を待ち受けていた。15分ほどの間隔で次から次へとヒサマツが飛来し、決まって目の前の枝に静止するのである。それも2段で届く位置に。この日は急激に天候が回復したため尾根はかなりの強風が吹き抜けており、ヒサマツは強風を避けて低い位置に止まったようにも感じられた。

 3時半ごろになって別の採集者がやって来て後ろで待っているので、あまり独占しても悪いと思ってポイントを半分譲ったが、その場に雅恵を残して周辺を見に行くと、近くの他の場所でも3♂採れた。

 最後、4時過ぎに元のポイントに戻ってしばらくすると、初めて♀がやって来て♂が止まるのと同じ枝先に止まった。羽化したてと思われる極めて新鮮な個体だった。ピンポイントでこの場所に新鮮な♀が来たということは、発生地がさほど離れていないことを示唆しているような気がした。

 この日ネットした合計15♂1♀の内、2♂は尾突が両方とも欠けていたためすぐにリリースしたが、もしかすると同一個体だった可能性がある。さすがに7月とあっては完品は1♀だけで、♂はすべてスレていた。しかし、それでも13♂は尾突は両方とも完全に揃っており、二人連れカメラマンの「みんなボロばっかり」というのはむしろ不思議な気がした。でもよく考えてみると、生態写真の場合少しでもスレていると絵にならないので、完品以外は全て「ボロ」ということだったのだろう。

 いずれにしても、長年蝶をやってきた中でも忘れられない幸運な一日となった。情報を提供してくださったK氏と、見ず知らずの私たちにポイントを譲ってくださったカメラのお二人に感謝申し上げる。

[記録]7月4日(日) 同行者 雅恵

静岡県内某所 ヒサマツミドリ 13♂1♀(内2♂雅恵。他2♂リリース)

 


■ 7月18日(日) 日和田高原のオオイチモンジ

 ヒサマツでホームランをかっ飛ばした勢いで、「日和田のオオイチなんて、もしかするとちょろこいんじゃない?」と、大見栄を切って出かけてはみたが、全く観もせず。ヤマナラシさえ見つからなかった。みなさん情報が早いようで、採集者は多かった。

 この日、周辺の林にはいたるところにロープが張り巡らされ、「私有地につき立ち入り禁止」の看板が下がっていた。オオイチの場合は林内に立ち入る必要もないけれど、以前、アイノ♀やウスイロオナガを多数採集したミズナラ林にも立ち入ることができなくなってしまった。

[記録]7月18日(日) 同行者 雅恵

岐阜県高山市(旧高根村)日和田高原 オオイチモンジ null