後悔しない家づくり(3) ー 楽しい建売りめぐり

 ハウジングセンターへ行った日を境に私は突如何かに目覚め、火が点いたように勉強を始めた。夜な夜なインターネットでハウスメーカーのサイトや不動産屋のサイト、建材メーカーのサイトなど首っ引きで読んだ。

 不動産屋のサイトで近くの建売物件を探し出し、教えられた通りに地価から逆算して建物の値段を調べ、毎週末には建売りを見て回った。突然降って湧いたように始まった私の家づくりの中で一番楽しかったのは間違いなくこの建売りめぐりで、わずかの間に「にわか建売り評論家」になっていた。

 建売りを見てまわるとすぐに気付くことがある。「明るい日差しが降り注ぐくつろぎの家」「笑顔がはじける家族団らんの家」といった具合に、たいていどの家にもキャッチコピーが付いている。ありきたりの耳ざわりの良い言葉を並べているだけかと思いきや、実はそうではなかった。

建売りの折込チラシ。どの家にも必ずキャッチコピーが付いている。
建売りの折込チラシ。どの家にも必ずキャッチコピーが付いている。

 

 「明るい日差し‥」なら、南向きの立地を生かして南の窓を大きめにとってある。「笑顔がはじける‥」では、家族団らんのためのLDKが広めにとってある。なんだそれだけのことかというと、それだけではない。南の窓を大きめにとれば冬は暖かいかもしれないが夏は暑いだろう。それはどうしてくれるのかというと、どうもしてくれない。LDKを広めにとれば、その分他が狭くなっている。つまり、限られた予算の中で何かを良くすれば何かが犠牲になる。キャッチコピーの裏側に、その家の弱点が見え隠れしていた。

 このことは、私があらかじめ家の値段を調べ、予算に合わせて一定の値段以下の物件を見て回ったこととも関係している。高い金を出せばきっといくらでも良いものはあるのだろうが、普通は予算に限りがあるので、結局相応のものしかないということだ。

 ただ、ここで注目すべきは、だったらその値段で建てられる標準的な家を建ててくれればいいのに、そうはなっていないということだ。どの家にも必ず何か「売り」があって、そのために何かが犠牲になっている。これを私は「建売り一点豪華主義」と呼んだ。「ゆとりの収納スペース」と言えば聞こえは良いが、その分居室が狭くなっているだろうし、当時としては「3台駐車可能」は珍しいと思ったら、代わりに玄関が狭くて4LDKの戸建なのに2DKのアパート並み、という物件もあった。

 なぜそうなってしまうのか。家ほど高額な商品は滅多にないが、こんな高価なものを契約もないまま建ててしまった以上、業者としてはどうしても売りさばかなければならない。しかも、家は建ててから日にちが経つと値が下がる。そこで、売りさばくための手練手管として、他との差別化が至上命題となる。「この家は特徴がないのが特徴です」なんて寝ぼけたようなことでは、きっと誰も見向きもしない。

 玄関を入るといきなり天井が吹き抜けになっていて、上から小さいながらもシャンデリアまがいの照明が下がっている、なんていうのが当時流行りのスタイルだった。これぞまさしく豪華さを演出するための典型的な売りの手練手管である。吹き抜けそれ自体は床面積が狭くなる分、照明代を差し引いても建築費用はおそらく逆に安く上がる。これを買う人は、吹き抜けを設けた分だけ居室が狭くなっていること、吹き抜けの天井からぶら下がっている照明の電球が切れたらどうやって取り替えるのか、このことを冷静に考えるべきだ。そもそも、豪華な玄関を自慢する相手がいったい何人来るというのか。宅配のおにいさんに自慢するのが関の山かもしれない。

 ついでにもっと言うと、建売りには「これって失敗作じゃねえ?」と首をかしげたくなるような物件もあった。広い寝室が売りなのに、その寝室の壁の4面ともに大きな窓やドアやクローゼットがあって、いったいどこにベッドを置けばいいんだ。その手のホテルじゃあるまいし、まさか部屋の真ん中か?とか、せっかくの南向きの部屋の南面に、どうしてクローゼットをつくってしまって窓がないんだよ、とか。あげつらえばキリがない。

 建売りめぐりが楽しかったのは、良くも悪くもそれが「現物」だったからだ。モデルハウスの夢物語とは違い、もしこの物件を買ったらここに住むんだと思うと、ここにベッドを置いて、ここにテーブルを置いてと想像が広がった。目で見て手で触ることのできる現実の夢がそこにあった。

 一方で建売りめぐりは、当初の目的通り、現物を見て見る目を養う教材としても大いに役立った。真冬の夕方、閉店間際に建売り物件の中に入ったら、北向きの玄関付近は暗くて底冷えがするほど寒いのに、2階の南向きの部屋は日中の日差しの熱が残っていて驚くほど暖かかった。建売りはカーテンも付いていないし空調もかかっていないので、住宅性能が丸分かりとなる。こういう家は、設計段階での間取りや窓の配置・大きさ、断熱性能などに問題があったということで、間取りを考える際の「生きた教材」となった。

(つづく)