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2016年採集日記(下)


■ 5月4日(水祝) 飛騨市宮川町万波のギフ (パート1)

 何を隠そう、私はこれまで万波高原へ行ったことがない。人が多い場所を避けていた、というか足が向かなかったのだ。前年に出版された櫟原俊嗣氏の「飛騨のギフチョウ」を読んでいると、基本的な産地を知らずしていったい何を語ろう、という気がしてきたので、遅ればせながら行ったことのない有名産地を訪ね歩くことにした。その第一弾が万波である。

小坂谷の高層湿原。
小坂谷の高層湿原。

 初めに小坂谷の湿原へ行ってみると、なるほど素晴しい湿原がそこにたたずんでいて、うなるほどギフチョウが飛んでいるかというとそうでもなさそうで、いっぱいいるのは採集者だけ。初めてなのでとりあえず周りの林道をしばらく歩いてみる。点々と採集者がテリトリーを張っていて、入り込む余地はなさそうだ。声をかけるとみんな申し合わせたように「少ないですね」という返事が返ってくる。でも♀もすでに出ているらしい。そんなに少ないのなら、どうしてみんなここで頑張っているのだろう。実際のところ、しばらく歩いて戻ってくる間、1頭のギフも見なかった。本当に少なそうだ。とりあえず、来たという証しに写真だけ撮る。

林道脇のショウジョウバカマで吸蜜する個体が多かった。
林道脇のショウジョウバカマで吸蜜する個体が多かった。

 所詮、日陰者なんで日の当たる場所は居心地が悪いんだ。とかなんとか訳の分からぬことをつぶやきながら、すごすごと退散して、次にゴミ谷へ向かう。ここで最初に会った親子連れの採集者からいきなり「いつもブログを見ています」と言われてビックリ。このサイトをご覧いただいているということのようだが、どちら様か存じ上げないし、どうして私たちと分かったのかと目をぱちくり。見ず知らずの人からこんなことを言われたのは初めてなので、かなり驚いたが嬉しかった。

 この日はよく晴れて気温も上がったが、なぜか猛烈な風が吹き抜けていた。林道を車でゆるゆると流しながら、「この風じゃあ絶対飛ばないよね、飛ばされることはあっても」と、雅恵に向かってつぶやいたその瞬間、車の前をギフが風に飛ばされていく。車を飛び降りて確かこの辺り・・と見失った付近を探すと、クマザサの根元のスミレにへばりついている綺麗な♀を発見。目の前にいるのにクマザサが邪魔してネットをかぶせられない。ポケットからデジカメを取り出そうとしたその瞬間、飛んだ。強風に波打つクマザサの波に飲み込まれないように、根際の地表スレスレを奥へ奥へと這うように飛んでいってしまった。

 いると分かったし、この強風ではどこへ行ってもどうせダメだし、ここで粘ることにする。が、結局、昼まで粘ってかろうじて1ペアという寂しさ。昼過ぎにあきらめて撤収しようとしているとところへ、我々を引き止めるかのようにギフが現れて1♂追加した。それならもう少しと未練がましくもたもたしていると、朝からの強風が少し凪いだような気がした。すると間もなくポツポツ飛び出し、30分くらいの間に結構な成果となった。撤収がもう5分早かったら、きっとこうはなっていなかった。

 ただ、思いのほか発生が進んでおり、徐々に♀が増えて最後は♀ばかりになってしまった。粘ればまだいけそうだったがやめにした。こんなに♀をたくさん採集したのは初めてのような気がする。

[記録]2016年5月4日(水祝) 同行者 雅恵

岐阜県飛騨市宮川町万波ゴミ谷 ギフ 7♂11♀(内1♂4♀雅恵採集)

 


■ 5月5日(木祝) 飛騨市宮川町万波のギフ (パート2)

 翌日、再び万波へやってきた。昨日お会いした親子連れから、ご親切にもポイントを教えていただいていた。今日はそこへ直行しようという安直な考えだ。

 ところが、ポイントに着くと思いがけず先客がいた。残念!と思いきや、かねてからお世話になっているW氏ご夫妻だった。聞けばこのポイントは以前から知っていて、久しぶりに来られた由。ポイントの概況を教えていただき、少し離れたところでやらせていただくことにする。

 この日、朝方は申し分ない天気だった。予報も良かったので、今日も天気で苦しむことになろうとは思ってもみなかった。だから、ポイントに着いたころには曇っていたが、全く心配していなかった。

 午前10時ごろ、待望の晴れ間にやっと1♂ゲット。待ったかいがあった。いよいよこれからだ。そう思ったのもつかの間、なぜか再び曇ってしまった。

 午前11時、W氏夫妻があきらめて転戦。その直後から急に青空が広がり始め、なんだか独り占めなんて悪いなあ、とほくそ笑んだのもつかの間、なぜか同時に風が出てしまい、むしろそれまでより寒く感ずるようになった。さらには、徐々に青空が広がってきたのに太陽のある所だけ雲が張り付いてとれないという、いつかの六厩のデジャヴ状態に陥る。気付けば優に空の半分以上が青空なのにかれこれ1時間も日が差していないという、何かのたたりか陰謀としか思えない天気となっていた。日照がないとどんどん寒くなり、正午ごろに至って今さらのようにフリースを着込んだ。

 それでも往生際悪く粘り続けて午後1時。参った。遂にギブアップ。nullでなくてよかったよ、と自分に言い聞かせて帰り支度を始めると、なんとなんと、人をからかうかのように日が差している。仕方がないのでこれで最後ということにして林道を歩くと、風も止んだようだ。

 こうして30分ほどの晴れ間にようやく5-6頭飛んだが、気温が低いせいかすぐにカラマツの梢へ上がってしまい、2♂を追加するのがやっとだった。後ろ髪を引かれる思いでカラマツの梢を見上げていると、たまりかねた雅恵が呼びに来た。きっとツノを生やしているぞと思いきや、なぜか満面の笑み。この日の雅恵は寒いので朝からずっと車から一歩も出ずに本を読んでいたはずだったのに、この時とばかりしっかり2♂を仕留めていた。できるな御主(おぬし)。必殺仕事人と呼んでしんぜよう(←古すぎ)。

[記録]2016年5月5日(木祝) 同行者 雅恵

岐阜県飛騨市宮川町万波 ギフ 5♂(内2♂雅恵採集)

 


■ 5月14日(土) 水無湿原のギフ

 ミズバショウが咲き乱れる本格的な高層湿原で、車で入れるにもかかわらず一般観光客が来ない。そんな奇跡のような場所が、富山県の岐阜県境近くの山奥にたたずむ、ここ水無湿原である。車で入れるといってもアクセスは極めて悪く、林道入口にたどり着くまでがすでにアドベンチャーの序章である。さらに、そこから湿原までの8km余りの林道はいっそうヤバイ。四駆である必要があるのは当然として、対向車が来るとすれ違いは困難。残雪の多い年はさらに困難を極めることと思われる。車はスキーへでも行ってきたかというような泥まみれ状態となり、両側のフェンダーには無数の引っかき傷が付く。以前から一度行ってみたいと思いつつ、アクセスの困難さにクマの恐怖も加わって、これまで行きそびれていた。今年は記録的に残雪が少ないので、行くならチャンスと思い決行する。

ミズバショウとリュウキンカ咲き乱れる水無湿原。
ミズバショウとリュウキンカ咲き乱れる水無湿原。

 この日の水無湿原は、みんな私と同じ考えなのか予想外に採集者が多く、ざっと数えて10人以上はいた。いくら広い湿原とはいえ周囲の林道を歩くとすぐに採集者と出くわし、美しい景色を眺めながらのんびり採集というわけには残念ながらいかなかった。

水無山山頂。
水無山山頂。

 湿原の周辺では思ったほど成果が上がらないため、水無山に登ることにする。山頂直下で下りてくる採集者とすれ違い、ポイントを譲っていただいた格好になった。が、当然のように、先客がスルーしたであろうボロないしはポンポロがいくつか来ただけだった。

 予想以上に季節が進んでいるうえ採集者が多くて成果があがらないにもかかわらず、せっかくここまで来たという思いからついつい長居をしてしまった。この日、林道入口には「環境保護のため湿原の2km手前から車両通行止め」という趣旨の看板が立っていたにも関わらず、車止めのチェーンもなければトラ柵も看板もないため、ほぼすべての車は湿原付近まで乗り入れていた。私たちは2km歩くつもりだったが、どこが「2km手前」なのか分からずに通り過ぎてしまった。そろそろヤバイよね、ということで適当な場所で車を停め、結果的に1.8kmほど歩いた。

 帰途、車を停めた場所までの林道上でポツポツとギフが出てきた。さらに、車のところで帰り支度をしていると、ひょっこりギフが姿を現す。しかも、湿原周辺よりも林道上のほうが全体的に鮮度が良い。しかし、翌日は深洞湿原に行くことを決めており、移動に要する時間を考えるとボチボチ撤収しなければならない。後ろ髪を引かれながら車を発進させると、するとどうだ、林道上のショウジョウバカマに多数のギフが来ているではないか。行きには全然見なかった。よく考えると、西向き斜面のため行きは日が当たっていなかったのかもしれない。この日に関しては、湿原周辺よりも湿原から2-3km手前の林道上のほうが個体数は多かった。

[記録]2016年5月14日(土) 同行者 雅恵

富山県利賀村水無湿原 ギフ 11♂4♀(内3♂雅恵採集。内2♂リリース)

富山県利賀村水無谷 ギフ 1♂

 


■ 5月15日(日) 深洞湿原のギフ

林道入口で車両は通行止め。
林道入口で車両は通行止め。

 原生林の中にたたずむ高層湿原として知られる深洞湿原を初めて訪れる。前日、道の駅で車中泊をしたのに、早朝から登るとクマが怖いのでゆっくり出かけたところ、登り口が分からなくて右往左往したり、登り始めて少ししてから雅恵がネットを忘れたと言い出して取りに戻ったりで、結局登り始めが8時半を過ぎてしまった。

秘境への入口。
秘境への入口。

 それでも飛ばしに飛ばして、ほぼ1時間で秘境入口に着く。木道をたどっていくとやがて湿原が現れるが、良さそうな場所にはすでに採集者が陣取っていて入り込む余地はない。

 それでも午前10時過ぎに雅恵が1♂採集したので、その少し奥で何とか良さそうな場所を見つけて腰を下ろした。

 しかし、それっきり追加がなく少々焦る。午後になって立て続けに採集できたときは、正直ほっとした。原生林の中にたたずむ高層湿原というと神秘的なイメージだが、木道がきっちり整備されていて「秘境」と呼ぶには少し違う感じ。木道が整備されるよりずっと前にここを見つけた人はエラいと思うし、最初にギフをネットしたときは足が震えたかもしれない。しかし今、いると分かっているこの場所で採っても、残念ながら大した感動はなかった。

 ここでも、知らない人から「ブログ見ています」と声をかけられた。どうして私たちと分かったのか気になって仕方がないが、聞きそびれた。

[記録]2016年5月15日(日) 同行者 雅恵

岐阜県飛騨市神岡町深洞湿原 ギフ 4♂2♀(内3♂雅恵採集。1♀未交尾)、シータテハ 1ex.(途中の林道上。今年の発生個体)

 


■ 6月18日(土) 湖北地方のフジミドリとヒサマツミドリ

 2年前、このポイントでヒサマツミドリでひと山当てたとき、フジミドリも沢山飛んでいたがボロだった。そこで次の年にフジの時期に合わせて出直したつもりが2回もフライングを犯し、足掛け3年、今回で3回目のリトライとなる。

ポイントの尾根道。左の木立がブナ。
ポイントの尾根道。左の木立がブナ。

 付近には尾根に沿って、ゼフィルスがテリを張るに適した開けた空間が所々にある。さらには手頃な高さのブナがあり、フジの完品が乱舞する様を想像しながら登った。今回は慎重に時期を見定めてきたので、よもや3度目のフライングはないはず。いや、それとも2度あることは3度ある?

 尾根に着いたのが12時半頃で、カンカン照りでまだ何も飛ばない。散々待たされ、散々粘って、やっと15時45分頃からフジがボチボチ飛び始めたがいたって少ない。なんとか1♂をやっとの思いで仕留めたものの、乱舞にはほど遠かった。

 きっとフジはまだ出始めなんだ、ということにしようと思った矢先の16時半頃、何とヒサマツが採れてしまい、またしても季節感が訳分からなくなった。

[記録]2016年6月18日(土) 同行者 雅恵

滋賀県長浜市某所 フジミドリ 1♂、ヒサマツミドリ 1♂

 


■ 7月10日(日) 伊吹山のミヤマカラスシジミ(パート1)

 伊吹山という山は、名古屋に生まれ育った者にとって最も身近に感じられる山のひとつだ。そのせいか、イブキジャコウソウなど植物の固有種の宝庫と聞いても、身近すぎてピンとこない。残念ながら昆虫相は植物相ほど特異ではないが、その中でミヤマカラスシジミだけは裏面白状が消失するブッ飛び亜種で、ズバリ ibukiensis の亜種名がある。いつか行かねばと思いつつ、いつでも行けるという思いでついつい先延ばしになっていたが、亜種の基産地が3合目付近と知って、それなら簡単に観られるかもと安直に考えて出かけた。

色とりどりの炊き込みご飯や蕎麦寿司など(道の駅「伊吹の里」にて)。
色とりどりの炊き込みご飯や蕎麦寿司など(道の駅「伊吹の里」にて)。

 行きに登山口近くの道の駅に立ち寄ると、色とりどりの美味しそうな炊き込みご飯や蕎麦寿司などが並んでいた。しかも安い。残念ながら家の近所のコンビニで味気ない惣菜パンなんぞを昼飯用に仕込んできてしまったので、今回はパス。そうと知っていれば初めからここで買えばよかった。

 登山口は南西麓の米原市上野にある。ここから3合目まで登山道を避けて林道を歩く。かつて3合目まで車で入れたが今は一般車両通行止めになっていて、歩くかまたはタクシーなら入れるようだが、初めての場所なのでまずは歩くことにする。標高差500m余りだが、道はしっかりしているし採集しながら歩けばちょうどいいとたかをくくっていた。

 果たして、1合目付近でオオムラサキを1頭目撃した以外ほとんどなんにもいない。ひたすら黙々と単調な林道を歩くと、日頃の運動不足も手伝って3合目に着いたころにはあごが出かかっていた。

 さすがにここまで来るとオオウラギンスジヒョウモンやサカハチチョウ、ウラゴマダラシジミなど、多いとは言い難いが山へ来たと思えるような蝶が見られた。しかし、肝心のミヤマカラスシジミは気配もなし。時期的にも少し早かったかもしれない。

3合目のユウスゲ群落。
3合目のユウスゲ群落。

 3合目付近ではちょうどユウスゲの花が見頃だった。この付近は少し前まで冬季はスキー場になっていたが、温暖化による雪不足で閉鎖されたとのこと。夏季は登山客を運んでいたゴンドラリフトも、今は運行されていない。さらに、近年は鹿の食害が著しく、2014年には写真のように防護柵が設置された。

[記録]2016年7月10日(日) 同行者 雅恵

滋賀県米原市上野伊吹山1合目 オオムラサキ 1ex.目撃

同3合目 ウラゴマダラシジミ 1♀

 


■ 7月18日(月祝) 伊吹山のミヤマカラスシジミ(パート2)

 伊吹山への登山ルートは、先週行った上野からのルートのほか弥髙と上平寺からのルートがあるが、いずれも南斜面を登るルートで環境的には大差ないと想像できる。このほか正式のルートではないが、岐阜県側にあたる東麓の笹又から登るルートがある。正式でないというのは、このルートは尾根筋で伊吹山ドライブウェイとぶつかってしまい、ドライブウェイは自動車専用道路で歩行禁止のため山頂までは行けないという意味だ。

 しかし、先週のルートが登山口の上野の標高が230mで3合目が760mであるのに対し、笹又は登山口640m、尾根が1050mなので標高としてはかなり高い。先週、3合目より下ではロクなものがいなかったので、少しでも上へ行きたいと思い笹又ルートに挑戦することにする。

 登山口の駐車場に車を停めて少し登ると、じきに急斜面の樹林内の小径となる。足元はガレ気味で、きついだけで面白くもなんともない登山道を無理ぜずゆっくり登って2時間弱、やっと小さな尾根に取り付いた(下の写真左)。尾根の直下から急に視界が開けて草原になっているが、残念ながらただのススキ原で多くは期待できそうにない。見下ろしてカメラをズームすると、はるか眼下の笹又の耕作地に自分の車が見えた(下の写真右)。

標高1050mの小さな尾根。伊吹山ドライブウェイが見える。
標高1050mの小さな尾根。伊吹山ドライブウェイが見える。
眼下には笹又の耕作地。
眼下には笹又の耕作地。

 尾根を超えて反対側に出てみると、大きな草原が急斜面に広がっている。草原の中を少し進むと強烈な横殴りの風が吹き付けていて、さっきまでの登りでかいた汗が冷えてあっという間に寒くなった。下手をすると低体温症になりそうだったし、それ以前にこんな強風では蝶なんているはずもないので、無理をせず引き返すことにする。付近は鹿の食害が凄まじかった。

鹿による食害の跡。茎が同じ長さのところで食われている。
鹿による食害の跡。茎が同じ長さのところで食われている。
いたるところに鹿の足跡。
いたるところに鹿の足跡。

 鹿はススキはお嫌いなようで食痕はほとんどなく、したがって、草原にススキばかりがのさばっているように見えた。

 鹿が増えると糞虫が増える。虫に罪はないが、岩上にたたずみ物思いにふけっているように感じられた。

岩上のオオセンチコガネ。
岩上のオオセンチコガネ。

[記録]2016年7月18日(月祝) 同行者 雅恵

岐阜県揖斐川町笹又上方の尾根 コチャバネセセリ 1♂1♀、オオウラギンスジヒョウモン 1♂