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2013年採集日記(下)


■ 4月28日(日) 旧丹生川村のギフ(パート1) 

 今年は春の高山祭り(4月14日・15日)と桜の満開が重なって話題になっていた。平年より1週間近く早い満開で、この時点でせっかくの3連休である27日(土)から29日(祝)は、飛騨の低標高地はすでに遅いだろうとあきらめかけていた。

 ところがどうだ。下呂の時と同じく、またしても神風ならぬ「寒波大明神」がやってきて、私のために(?)季節の進行を止めてくれていた。右表のように4月19日から第一級の寒波が居座って、20日頃から本格的に羽化しようとしていたであろう高山市周辺の丘陵部や低山地のギフは足止めを食った。28日・29日が予報通り晴れて気温が上がれば、待ちかねたギフたちが一気に羽化するはずである。

 そんな期待を胸に、随分古いが、蟲だより№185のF.コンチュウスキー氏のマップを頼りに旧丹生川村新張に来た。マップは分かりやすく新張と町方の堺の看板のところまではすぐに来たが、マップの通りに新張の方へ行こうとするとどうも様子がおかしい。どうやら圃場整備が進んで環境が変わったようだ。何しろ2001年のマップで12年も経っている。

●高山の2013年4月の気温

日付 平均 最高 最低
14 (日) 9.8

18.4

-0.2

15

(月) 10.7 18.5 5.3
16 (火)

12.0

22.7 1.7
17 (水) 14.3 20.5 8.4
18 (木) 15.1 24.9 6.1
19 (金) 5.8 10.5 0.1
20 (土) 3.7 8.6 -1.0
21 (日) 2.7 8.4 -0.9
22 (月) 3.6 11.1 -2.8
23 (火) 8.2 17.6 -2.3
24 (水) 10.8 12.9 7.6
25 (木) 12.1 21.8 4.4
26 (金) 7.9 15.4 3.6
27 (土) 5.3 10.3 2.9

 新張はあきらめて町方の側を探すことにする。約1時間歩いて首尾よく2か所でカンアオイを見つけたので、雅恵を呼びにいったん車へ戻る。手前の自生地に雅恵を残し、私は奥の自生地へと向かう。10時半頃、奥の自生地を見下ろす斜面に立ったその時、いきなり目の前のブッシュからギフが飛び出してきてゲット。鮮度はまずまずだが残念ながら鳥食われ。しかし、このあとすぐに斜面の日だまりに次々にギフが飛来し、僅か15分で新鮮な個体ばかり4♂追加できた(なぜか2回も振り逃してしまったけれど)。その間に雅恵からも採ったというメールが入る。あっさり旧丹生川村を落として上機嫌だが、結局この15分間だけで、その後コンディションはさらに良くなったにもかかわらずパタリと飛来が止まってしまった。

 

 午後からは飛騨古川町を探索。昨年2回にわたって笹ヶ洞周辺を探して採れなかったが、きっとここだ!と思う場所があった。笹ヶ洞と黒内の境界付近にある向山林道で、一帯は北向きの緩斜面でかなり奥まで林道が続いている。昨年5月時点では通行止めだったが、もしやと淡い期待を抱いて来てみたものの、今年も当然のように通行止めになっていた。入口に電気柵が設けてあり、「熊やイノシシが出没しており危険ですので、一般の方の通行及び入山は禁止いたします」とある。

向山林道入口
向山林道入口

 仕方がないので100mぐらい黒内側へ行ったところで山に入ると、林内に良さそうな湿地があちこちにある。しかしなぜかギフはおろかカンアオイも見つからない。1時間近く道なき山中をさまよううち、小さな尾根を二つ三つ越えたところで不意に林道に出食わした。この林道を奥へ詰めたりしながらさらに1時間近く探したが、結局ギフもカンアオイも見つからず。失意のうちにトボトボと林道を下ってきたら上記の写真の場所へ戻ってきた。なんだ、この林道が向山林道だったんだ。なんて、ちょっとわざとらしい? 悪意はありません。きっと向山林道へ引き寄せられたのだと思う。けれど、よい子の皆さんはマネしないように。マネしたところで、この林道にはきっとギフはいないと思う。

[記録]4月28日(日) 同行者 雅恵

岐阜県高山市丹生川町町方 ギフ6♂ (内1♂雅恵採集、1♂鳥食われ)

岐阜県飛騨市古川町笹ヶ洞、黒内 ギフnull

 


■ 4月29日(祝) 旧丹生川村のギフ(パート2) 

 翌29日は、朝から前日に続いて古川町笹ヶ洞周辺を探すも何ら手がかりがない。飛騨古川は一般にサイシン食いだが、ここ笹ヶ洞だけはヒメカン食いのギフを産するということなのだが、ギフもカンアオイもさっぱり見つからない。

 低温に悩まされ続けた今シーズン、この日初めて現地で気温が20度を超えた。待ちに待ったギフ日和。こんな絶好の日に、なんでよりによっていない場所で探しているんだろう。だんだんブルーになってきた。こんな絶好の日にこのままnullで終わるのだけは避けたかったので、「根性なし」と言われようが「意気地なし」と言われようが「甲斐性なし」と言われようが「節操なし」といわれようが、何と言われようが、昨日しっかり採った丹生川町町方へ昼から転戦してしまった。当然いくつかは追加できてnullだけは免れた。

 我ながら少し情けない気もするが、「町方(まちかた)」なだけに「あ、(し)かたない」といったところ。あっ、もうひとつおまけに「性懲りなし」でした。

[記録]4月29日(祝) 同行者 雅恵

岐阜県飛騨市古川町各地 ギフnull

岐阜県高山市丹生川町町方 ギフ3♂1♀ 新鮮(内2♂雅恵採集)

 


■ 5月3日(祝) 旧古川町のギフ(パート1)

 5月の連休を利用して2泊3日で「性懲りもなく」飛騨古川へ来ていた。古川町では、笹ケ洞を中心に2年越しで足掛け4日探しているが全く手がかりがない。この日またしても寒波がやってきてかなり寒かったが、連休は後半にいくほど気温が上がる予報なので、明日以降のためにむしろこの日は下見に専念できた。

ヒメカンアオイ
ヒメカンアオイ

 笹ケ洞は結構広く、足掛け4日探してもまだ探していない場所があった。この日は気合入りまくりで、山中をそれこそ這いずり回るようにして探した挙句、山を下ったところのしょうもない耕作地のへりのような場所で遂にカンアオイを発見。狭い範囲だが結構な密度で自生している。しかし、あ まりにしょうもない場所で、ここでギフが発生している可能性は低いと思えた。  

 しかし、これがきっかけとなって夕方近くにもう1か所でカンアオイの自生地を発見。こちらは北東向き緩斜面の明るいヒノキの植林内で、多少は期待できる。足掛け5日目にして、遂にカンアオイの自生地2か所を見つけたのであった。

[記録]5月3日(祝) 同行者 雅恵

岐阜県高山市古川町各地 ギフnull(低温) 笹ケ洞 カンアオイ確認

 


■ 5月4日(祝) 旧古川町のギフ(パート2) 

 翌4日は当然のように前日見つけたヒノキ林のカンアオイ自生地へ直行する。まだ寒気が抜けきらず、午前中はやや低温の予報だが贅沢は言っていられない。飛騨古川探索6日目にして、やっとまともに勝負できそうな気がしていた。

 件のポイントにトラップを仕掛けてここに雅恵を待たせ、例によって私は周辺へ探しに行く。周辺には一見良さそうな明るい自然林がいくらもあり、あの場所にカンアオイがあるのなら周りにも必ずあるはずとにらんだ。しかし、かなり探したがどうしてもカンアオイは見つからない。逆に言うと、なぜ植林内のあの一角にだけ自生しているのか不思議に思えてくる。時間の経過とともに次第に敗色濃厚となり、低温を考慮して祈るような気持ちで午前11時まで粘ったが、遂にギフが姿を見せることはなかった。

 足掛け6日歩き回った印象として、笹ケ洞周辺の山は特に中腹から尾根にかけてはアカマツが優勢でカラマツも多い。土壌は全体に赤土で砂礫を多く含み、保水力の乏しいやせ山という印象で、そういえば笹ケ洞ではカタクリさえ見なかった。

 

 午前11時で白旗を挙げた私は、すぐさま古川町内の別の場所へ転戦した。前の晩はたまたま少し遠くに宿をとっていて、この日の朝、笹ケ洞へと急ぐ車の助手席でふと雅恵が言った。

「あの尾根なんかどう? いい感じじゃない」

 見ると、なるほど良さそうな尾根が真正面に横たわっている。しかし、見た目いい感じの尾根なんて、それこそゴマンとある。いちいちチェックしていたらキリがない。しかし、続けて発した雅恵の言葉に、思わずうなった。

「よくあなたが言っている○○が×××××××している地形よ。斜面の向きも良さそうだし。それにここ、古川町よ」

 ○○、××は「企業秘密」のため開示できないのが残念だが、それにしても門前の小僧とはよく言ったもので、いったいいつからこんな蝶屋みたいな口をきくようになったのだろう。しかも雅恵は、これらの情報を車窓からの風景とカーナビの情報から瞬時に読み取っていた。私は穴があくほど事前に地形図を見ていたにもかかわらず、この尾根はノーチェックだった。

 しかし、これには実は訳があった。カーナビの現在地情報を見ると「飛騨市古川町●●」。聞き覚えのない地名だった。そう、ギフの記録のない地名なのだ。過去に記録のある場所ばかりを探している私には、全く眼中にない場所だった。これだけ探して見つからないのに、まさか記録のない場所で見つかるとはとても思えない。しかし、笹ケ洞でコケた今となっては、藁をもすがる思いですぐさまこの「雅恵ポイント」へ転戦したのだった。

 着いてすぐ尾根へ上がる適当な小径を探したが、そんな都合の良いものはそうそうない。こんな時間から藪こぎであの尾根まで登るのはきついなと思っていたその時、あった! 斜面にサイシンがあった。よく見ると、みずみずしいサイシンの株がそこここにある。サイシンの状態や木々の芽吹き具合からして、意外に季節が進んでいるようだ。これは無理して尾根へ上がっても無駄と思い、まずは腹ごしらえをということになって、ブルーシートを広げて二人で昼食を食べ始めた。

 食べ始めてすぐだった。目の前のスミレにいきなり来た。2年越しで足掛け6日にわたって古川町内を探しまわり、笹ケ洞に固執するあまり何も得られず惨敗を繰り返した。一瞬の雅恵の機転により思いがけない形でポイントにたどり着き、いま目の前の日だまりでギフが吸蜜している。もうこれだけで十分だった。この光景を目の当たりにしただけで、心から幸せな気分になれた。

 このあともう1頭やって来たが、いずれも♀で、しかもスレとややスレだった。ここは来年の楽しみということで、大切にとっておくことにした。

[記録]5月4日(祝) 同行者 雅恵

岐阜県高山市古川町笹ケ洞 ギフnull

岐阜県高山市古川町某所 ギフ2♀ スレ

岐阜県飛騨市神岡町各地 ギフnull(午後から。曇り一時にわか雨のため下見)

 


■ 5月5日(祝) 旧神岡町のサイシン食いのギフ 

 神岡町では以前、大多和峠を岐阜県側へ下ったところでいくつか採集しているが、近年、低標高地でサイシン食いが採れているとのことでこれを狙う。前日は雅恵の大殊勲により遂に2年越しの古川町を落としたので、ここは奮発して豪華ホテルか高級旅館にでも泊まってご褒美を口実に祝杯といきたかったが、連休のさ中、そのような宿泊施設は予約でいっぱいのため、結局のところ神岡の道の駅で車中泊とあいなった。近くの中華料理店でつつましやかに乾杯!

 車中泊をすると朝が早い。気温が上がるまでにはまだ十分に時間があるので、 ちょっくら下見でもしてくるか、ということで、昨日車で通った時に気になっていた神岡町伏方へ向かう。当地も記録はないように思うが、30分ほど探して結構簡単にサイシンが見つかってしまった。昨年、古川町でなんの手がかりもなかった日に神岡町山田ではサイシンを見つけている。さらには昨日の午後には、神岡町大笠でもサイシンを見つけており、古川町であんなにカンアオイが見つからなかったのとは対照的に神岡町のサイシンはホイホイと見つかる。やっぱ、あるところにはあるねえ、ないところにはないけど…。

 もっとも、サイシンがあるからといってギフがいるとは限らない。山田、大笠、伏方とサイシンを見つけたけれどまだ心配で、欲を出してもう1か所、寺林へ下見に行ったのがまずく、山田の小ピークに着いた時には既に10時近かった。今シーズンはずっと低温に悩まされ続けてきたが、この日はこの時間で十分気温が上がっていて完全に出遅れた感があった。それでも、ピークにはちゃんと2♂が待っていてくれた。

 朝方見つけた伏方のサイシン自生地へ戻ったのが午前10時半。わりと豊富にサイシンがあるが、ギフの姿はない。しかし、東向き斜面のため日あたりが良くてかなり気温が上がっており、仮にいても出払ったあとかもしれない。焦ってピークへ登る途中の斜面で、あっさり未交尾♀、直後に新鮮な♂を採集。やっぱりいたか。この分ならピークには沢山溜まっているだろうと期待して登ったが、ボロと鳥食われの2♂がいただけ。仕方なく下ってくると、出払ったあとと思っていたが雅恵も新鮮な♀を採っていた。

 正午前には大笠へ。大笠は最近あまり記録を見ていないので、前日にサイシンを見つけたものの期待薄と思っていた。ところが、現場に着いてすぐ斜面の上の方を飛翔するギフを発見。あえぎあえぎ懸命に駆け登ったが、あと一歩のところで逃げられた。いきなり斜面をダッシュで登ったらフラフラで、その場所でへたりこんで休憩がてら昼食とする。

 ややあって、トラップにポツ、ポツと2頭飛んできたが、何と2頭とも未交尾♀だった。山田と伏方ではサイシンの株はそこそこ開いていてギフは盛期と思えたが、標高差のある大笠ではサイシンはまだほんの芽吹き程度。ギフは当然発生初期だろうと予想していた。そこへいきなり未交尾♀が2頭続いたのには驚いた。寒波のひどい年に未交尾♀というと、♂と♀の発生が割れたことが考えられる。しかし、この場合そうではないと直感していた。大笠のサイシン自生地は結構な急斜面で、羽化した個体は上へ上へと登ることが予想される。しかし、地形図を見るとピークは遥か上方で、はたして♂と♀は出会えるのかと思わず他人の恋路を心配してしまう。実際少し登ってはみたが厳しい急斜面で、途中、地形的には溜まりそうな場所があったもののこの時間カンカン照りで、いったい本当に♂はどこへ行ってしまったのかと思った。鮮度を確認するためにも♂を採りたかったが、最初に逃がした個体が多分♂だった。

 少し気温も上がりすぎのように思えた。この日は連休の渋滞が予想されるので、少し早いが午後1時に切り上げることにした。内心、後ろ髪を引かれながら斜面を下りてきて、車のところまで来たその時だった。停めてあった車のすぐ横で、地面にギフが羽を広げて静止している。ネットすると、予想した通り本日羽化と思われる新鮮な♂だった。たった1♂だが予想通りの鮮度だったことに満足し、今日はサイシンを見つけた3か所全部でギフが採れたことに満足し、記録がないと思われる場所で採れたことに満足し、今シーズン初めて一日で二桁採集(雅恵と二人で)できたことに満足し、充実感に浸りながら帰路についた。やっぱ、気温さえ上がれば採れるんだよ、きっと。

[記録]5月5日(祝) 同行者 雅恵

岐阜県飛騨市神岡町山田 ギフ2♂ ややスレ

岐阜県飛騨市神岡町伏方 ギフ3♂2♀ 新鮮からボロ (内1♀雅恵採集。1♀未交尾)

岐阜県飛騨市神岡町大笠 ギフ1♂2♀ 新鮮(2♀未交尾)

 


■ 5月12日(日)・13日(月) 旧上宝村荒原のギフ

 今年、飛騨では旧丹生川村と古川町を落としたので、残りは旧上宝村と国府町だけとなった。だけと言っても、この2町村こそが“ベリー・レア”であることは先刻承知である。

 旧上宝村荒原は、2012年11月発行の月刊むし№501に櫟木俊嗣氏の連載「湿原の輝き・ギフチョウの彩り」シリーズ5回目として詳しく紹介されている。これを読む前の同年5月にたまたま当地に下見に来ていた。何も知らない私は国道沿いに広がる高層湿原を見つけた瞬間、ヤッタッー!と、ぬか喜びし、湿原内をいくら探しても見つからないカンアオイに、世の中そんなに甘くないことを思い知った。

 月刊むしを読み、再び意欲をみなぎらせて荒原の湿原にやって来た。よい子の掲示板によれば、直前の5月8日には我れらがY岡氏も苦節○年とかで当地のギフを落とされた由。日曜日で快晴のこの日、きっと採集者であふれかえっていると思いきや…??? なぜか富山ナンバーの採集者が1人いるだけ。いつもながらこの情報化社会において情報から取り残されている私は情報難民なので、情報通から見たら「あの馬鹿、今ごろこんなところへのこのこ来おって」とかいうことなのだろうが、どうせ自己満足の世界なのでこれでいいのだ。

 そんなこんなで、2日間をかけて荒原の湿原をシラミつぶしに歩き回り、必ずや上宝のギフを落としてみせる!と意気込んだのもつかの間、湿原の中を少し歩いてすぐ嫌になった。湿原内は思いのほか歩きにくく、効率が悪いことおびただしい。蛇行する小川はいちいち向こう側へ渡ることが困難で、巨大なクマザサは身長180cmの私の上から覆いかぶさってくる。ツゲはバリケードを張って行く手を阻んでいるし、少し油断すれば足元がズボズボッといきそうだし… 。やめ、やめ、やめだ。そういえば去年もそれでやめたんだった。すぐに忘れる学習成果の上がらないヤツとは私のこと。

 ここで方針を変え、地形図で当たりを付けてポイントを絞って探すことにする。こんなに天気が良ければ、わざわざ湿原の中へ入っていかなくても必ずやギフの方が湿原の周囲へ出てくるはずだ。そこで、湿原の周囲と、さらには周辺の尾根を探すことにする。

 この季節、五月晴れの尾根は実に気持ちがいい。360度の大パノラマ。西に白山連峰、南に御岳、東は乗鞍岳…。湿原を埋め立てて別荘地を造るぐらいならここに造ればいいのに、なんて要らぬことを考えながら、ハイキング気分でこんな写真ばかり撮って遊んでいた。タラの芽がそこかしこにあったが、さすがにこれを採る余裕まではなかった。

西に白山連峰
西に白山連峰
南に御岳
南に御岳

 良さそうな尾根や小ピーク、ついでに伐採地、沢の源頭や池の奥などポイントを絞って順に探した結果、1日半かけて一通り探し終えたが全く気配もない。2日目の昼、弁当を食べたあと草の上で大の字になった。さすがに歩き疲れた。2日続けて快晴で気温もぐんぐん上がり、ずっと低温で苦しんできた今シーズンが嘘のような絶好のコンディション。半分下見のような昨日今日がこんなにいい天気でなくてもと、少し恨めしい気がした。しかし、なんの手がかりもない。あと半日どうしよう。じわじわと徒労感がにじんできて、少しブルーになってきた。

 こんな時は初心に帰るのが鉄則なので、もう一度地形図を広げてみる。前述の月刊むしによれば、少し下流域にはかつてサイシン食いのギフを産したがサイシンの消滅とともに姿を消したとのこと。その記述を信じてカンアオイを探しているが、昨年、蔵柱でいかにもサイシンがありそうな丘陵を見つけているのでそこへ行ってみようか。昨年は時期が早かったので芽吹いていなかったが、もしあれば、いまならバンバンに茂っている時期だ。そんなことを考えながら地形図を眺めていた時、ふとひらめいた。この林道はまだチェックしていないな。とりあえず行ってみよう。

 行ってみると、いきなり良さそうな林が目に飛び込んできた。荒原周辺はミズバショウの咲く高層湿原が残っているとはいうものの、決して良好な自然環境が残っているとは言い難い。乱開発によって地域全体の荒地化が進んでいるように感じられる。そんな中で、いま目の前にちっぽけながらいい感じの自然林が残っている。足を踏み入れると、あった! 本当にそこにはカンアオイが残っていた。ネコの額と言うよりネズミの額というほどの小さな小さな湿地で、周りを水路に取り囲まれて二度と再び周囲に広がることのできない閉鎖された環境の中で、細々とカンアオイが生き残っていた。この時点でまだ午後1時。天気は絶好。いれば飛ぶかもしれない。付近の林内にトラップを仕掛け、20分ほど待ったがギフは飛来しなかった。

 ここにカンアオイがあるなら周囲にもあるかもしれない。探し回ってもう1か所見つけた。こちらは環境良好とは言い難いが、カンアオイ自体は結構沢山あった。ギフは見られなかったが時期と時間が遅めだったので、来年もう一度トライしなければならないと思っている。

[記録]5月12日(日)・13日(月) 同行者 雅恵

岐阜県高山市(旧上宝村)荒原 カンアオイ確認

 


■ 5月17日(金) 郡上市石徹白のギフ 

 2013年4月号の月刊むし№506に「野伏ヶ岳東方の湿原」というのが載っている。2012年8月発行のみやくに通信200+1号に載ったのも同じ場所で、今年は人が沢山入りそうと思い、土・日を避けて少し早いと思いつつも金曜日が週休のこの日に出かけた。

 いまを去ること14年前の1999年5月22日、当時まだほとんど知られていないこの地を、知人が見つけて私を案内してくれた。その時は24♂1♀採集できたものの新鮮な個体が少なく、素晴らしく景色の良いところなのでいつか雅恵を連れて再訪しようと思いつつ年月が過ぎてしまった。

 それなのに、雅恵が今日は仕事で行けないと分かっていながら、前述のような卑しい思惑により一人で来てしまった。ポイントへと向かう林道は南側斜面のため思いっきり季節が進んでおり、もう遅いのではないかと心配になる。それでも途中のスギ林に大量の残雪があり、ここで車は断念。残り30分強歩いて現地に着いた途端、逆に心配になった。思いのほか残雪が多くて季節が進んでいないのだ。全体的には8割がた雪は消えているが、カンアオイのありそうな場所の多くは雪の下だ。それでも絶対出ているはず、快晴で気温もぐんぐん上がっているので絶対出ると信じて昼前まで粘ったが、結局null。5月半ばにもなって痛恨のフライング。

旧和田山牧場から臨む野伏ヶ岳
旧和田山牧場から臨む野伏ヶ岳

 なお、当地は地図上に適当な地名がないため「野伏ヶ岳東方の湿原」などとまどろっこしい表現がされたりしているが、付近一帯は地元では「和田山」と呼ばれていてその名の道標も立っているし、山スキーをする連中や山菜採りの間では「旧和田山牧場跡」として結構メジャーなスポットであるとか。

 

 こんな天気のいいそれも平日にnullは嫌なので、急いで和田山を下って前述のみやくに通信に紹介されていた杉山へ向かう。このところ、雅恵を連れて行かない時に限って成績が芳しくなかったりして、「あなた、女神は誰だか分かってる? ギフチョウじゃなくってよ」などと自称女神さまから毒づかれたりしているので、nullで帰るのはシャクだった。特に今日は、人出を避けるがために雅恵をほうってまで早めに行っておいて、挙句はフライングでは世話ない。

 みやくに通信の記述からは杉山のポイントへは登山道があるかのようだが地図上に道はなく、現地で探したが見つからない。登り口を探すのに時間を浪費し、あきらめて藪こぎで登り始めたのが午後1時。途中なるべくスギの植林内を歩き、飛ばしに飛ばして急斜面を直登で200m登ったらメチャしんどかった。ポイントの標高は880mとのことで和田山より200mも低く、せっかく登ってもどうせボロだ、そう思いつつ登ったので余計しんどかった。

 ポイント一帯は緩斜面になっており、沢が源頭部で幾筋もの小さい沢に枝分かれしたところにカンアオイが自生している。一見広くないようだが奥へ奥へとどこまでも続いているようすで、地形図上は緩斜面がかなり広がっている。意外に森は深く、足元にはまだら状にしか日が当っていない。木々の芽吹きの状態からは完全に遅いと感じられ、案の定最初の1頭はスレだったが、なぜか2頭目以降は思いがけず新鮮な個体が続いた。発生地なので当然♀も出ていると思われるが採れなかった。緩斜面といっても沢がいっぱい入り込んでいるため、歩き回るには骨が折れる。午後のギフは飛ぶコースが予測困難で的が絞りにくい。振り逃がしや振れず逃がしもあったが1時間ほどで5♂を仕留め、何とか満足した。

倒れたまま芽吹いているコシアブラの大木
倒れたまま芽吹いているコシアブラの大木

 下りかけたところで、倒れたまま芽吹いているコシアブラの大木を見つけた。いずれ枯れるのなら、これを全部採取して名古屋で売ったらハウマッチ!といったところだが、残念ながら写真のとおり既にこんなに開いてしまっていた。経験上コシアブラが採れるころにはギフはもう遅い。そのコシアブラがこの状態ということは、ギフには優に1週間以上遅い。しかし、実際には新鮮なギフが採れた。さらに和田山ではフライングだった。石徹白のギフは私自身経験が浅く、ますます訳が分からなくなってしまった。

[記録]5月17日(金) 同行者 なし

岐阜県郡上市(旧白鳥町)石徹白和田山 ギフnull

岐阜県郡上市(旧白鳥町)石徹白杉山東斜面 ギフ5♂ 新鮮

 


■ 6月1日(土) 利賀村高標高地ポイントのギフ 

 当地は随分以前に知人から教えてもらいいつか行こうと温めていた場所で、標高は1300m前後ある。この日は天気予報によれば午後から下り坂だが午前中は晴れとのことで、日帰りには少々遠いが思い切って出かけた。

 ところが、午前9時半に着いた時点ですでにかなり雲行きが怪しい。この時点でほとんどあきらめかけたが、尾根沿の林道を車で流してみるとすぐにポツポツとギフが出てきた。これは薄日でも差せばかなりいけるかもしれない。と思ったのもつかの間、林道を少し奥へ詰めているうちにどんどん雲が厚くなってきて、あっけなくジ・エンド。朝早くから長距離を飛ばしてきたというのに、やれやれ、また天気予報にだまされた。

 仕方なく来年のための下見に切り替え、林道を奥の方まで詰め、再び入口の方へ戻ってきた時だった。林道上にギフがふらっと出てきた。いつの間にか空が少し明るくなっている。車を停めて尾根の林道を歩くと、ポツポツ飛び出す。ギリギリのコンディションで活動は不活発だったが、天気もかろうじて昼まで持ち、結果的に20頭ほどネットできた。ただし、鮮度にバラツキが大きく、完品からボロボロまでで半分以上リリースした。

 実はこの日は初っぱなからトラブルがあった。最初にネットを組み立てようとしたとき、買ってからいくらも使っていない四つ折りのジョイントのネジの部分が、コロンととれてしまったのだ。いつもは予備が車に積んであるのにこの日に限って予備がない。仕方なく、当然のように雅恵のネットを取り上げて採集していると、よせばいいのに雅恵は枠だけのネットを持って歩いている。

私 「そんなんじゃ、ムリだろう」

雅恵「活動が不活発だから、何とかなるわよ」

 途中で気付くと、ネジがとれたあとの穴に木の枝を差し込んで、お散歩ネットのようにして使っている。といっても柄の部分を持って振ることはできないようで、単にぐらつきを防止する程度らしい。何頭採れたかためしに聞いてみたら、何と私よりも数が出ているではないか!

私 「ボロはちゃんとリリースしてるか?」

雅恵「失礼な。ちゃんとリリースしています。でも、わりとみんな綺麗よ」

 帰宅後、雅恵の三角缶の中から6♂3♀出てきた。ボロいのも2~3混じってはいたものの、3分の1ほどリリースしたというので15頭近くネットした計算になる。こんな枠だけのネットで、お見事というか圧巻の成果であった。

こんな枠だけのネットでよく採りました。パチパチ。
こんな枠だけのネットでよく採りました。パチパチ。

 さらに驚いたことに、本人曰く、今シーズンはこの日の6頭目まで振り逃がしがなかったという。空振りは1回だけあったが、その時も追いかけていって採ったので、振り逃がしはゼロが続いていたという。この日の7頭目と8頭目が連続振り逃がしだったそうで、「こんなネットのせいよ」と悔しがっていた。こんなネットで二桁採ったこと自体が驚愕の事実である。やっぱり女神さまは貴女でした。

[記録]6月1日(土) 同行者 雅恵

富山県南砺市利賀村某所(標高1300m前後)ギフ13♂4♀(内、雅恵6♂3♀採集。ほかリリース多数)

 


■ 6月22日(土) 医王山のフジミドリ

 2年前にも当地へフジ狙いで来ているが、その時は微妙にというか完全にというか、よく分からないがとにかくフライングで全く見もしなかった。その時は6月18日なのでカレンダーのうえでは今回といくらも変わらないが、山一面タニウツギのピンクで染め抜かれていた。それが今度はヤマボウシの白で埋め尽くされている。それぐらい季節が違うということらしい。ところどころピンクに見えるのでタニウツギかと思いきや、近づいてみると咲き始めのヤマボウシの花が淡いピンクなのだ。名古屋近郊ではこういうヤマボウシは見たことがないように思う。

 さて、2年前も物凄い濃霧だったが、今回も登っていくうちに雨が降りだし、あっという間に真っ白しろの世界になってしまった。ガスが発生しやすい地形なのだろうか。尾根のブナ林の前で、車の中で天候の回復を待っていると、地元富山ナンバーの採集者がやってきて長竿を伸ばしている。まさか、まだ雨が降ってるでしょうが、と思いきや「もう飛んでるよ」とのこと。

 先に来て待っていたのに先を越されてしまい、あわてて参戦する。時間はまだ12時半。小雨が降ったり止んだりのコンディションなのに、すでにテリ活動らしい飛び方でいくつか飛んでいる。しかしながら、一番美味しい場所を押さえられてしまって大苦戦。しかし、さすがに悪いと思ったのか、しばらくしてベストポイントを譲ってくださった。しかし、情けないことに今度は己の運動神経の鈍さゆえに大苦戦。フジは飛び方は速くないが、ちっとも止まってくれない。7mの竿では空中戦は歩が悪い。もたもたしているうちに、突如目の前1~2mのところへ飛んできて、あわてて竿を縮めると今度は向こうへ行ってしまう。まるで、わざわざ至近距離まで来て「あっかんべー」をされているみたいだ。そんなことを繰り返しているうちに、1頭も採れないまま1時間ほどで早々にテリが終わってしまった。かの採集者は、さすがに同情したのかあきれ果てたのか、短時間で採集した4♂全部を私に下さって他へ移動して行かれた。

 自分で採ることにこだわってその後も粘り続ける。午後2時半頃だった。1時間近くも飛ばなかったフジが、ブナの枝先でひょこっと飛んですぐに止まった。さすがに楽勝。採ってみると羽化したての♂だった。ほどなく同じようなパターンで今度は♀を採集。これは美味しい、とばかりにそこからさらに1時間以上粘ったが、さすがに3匹目のドジョウはいなかった。天候の加減でテリタイムが相当早まったため、活動が終わってから羽化する形になったと想像される。

 午後4時に撤収して途中所々で車を停めながら山を下ったが、この時間、山の上から下までいたるところでウラクロが非常に多かった。どれくらい多いかったかというと、停車中の車のフロントガラスに止まるくらいだから半端なく多かった。

車のフロントガラスに止まったウラクロシジミ♂
車のフロントガラスに止まったウラクロシジミ♂

[記録]6月22日(土) 同行者 雅恵

富山県福光市医王山 フジミドリ1♂1♀、エゾミドリ2♂(ほかフジ4♂、アイノ1♂もらい受け)

 


■ 6月23日(日) 神通峡のヒサマツ

 梅雨の晴れ間のうだるような暑さの日が、絶好のヒサマツ日和だという。この日の予報は晴れ時々曇りで降水確率10%。絶好とまではいかなくとも、ヒサマツ日和であることには間違いなさそうだ。そう信じて前夜は前祝いの祝杯をあげたが、朝起きると富山平野は雲が多くて天候の回復は思わしくなかった。

 それでも神通峡に着いた9時半ごろにはなんとか晴れてきたが、よくあるパターンで天候の回復に伴って風が出てきて快適、爽やかでは、ヒサマツ日和にはほど遠い。私と同じように、天気予報に踊らされた人達が続々とやってくる。午前中から大勢が押しかけたが、驚いたことに全員がカメラである。ゼフの生態写真はなかなか大変だと思うが、ここ神通峡はヒサマツの個体数が多いうえ、急斜面なので目線より下でテリを張るポイントがあるということらしい。

 しかし、この後も天気の方は思わしくない。昼前ごろから再び雲が増えてきて、やっと1♀を目撃した12時半ごろを最後に完全に曇りの天気となり、午後1時半過ぎには全く飛びそうになくなった。そのころには大勢のカメラマンが橋の上に集まって座談会状態となっていた。そんな中、たまにエゾミドリが出現して誰かが 「ヒサマツ!」と叫ぶと、大勢が一斉に同じ方向に走っていって橋の欄干に鈴なりになってカメラを構える。エゾのテリなんかよりも、その様子こそが絶好の被写体のように私の目には映った。

 結局、午後2時には夕立が来て撤収。富山というところはとにかく天気の悪い日が多く、たとえ天気予報が良くっても、特に山の天気は変わりやすいらしい。

[記録]6月23日(日) 同行者 雅恵

富山県富山市(旧大沢野町)神通峡 ヒサマツミドリ null