2011年採集日記


 この記事は、よい子の蟲だより№233(2013年3月31日)に掲載されたものを、一部加筆修正してアップしたものです。


  91年から毎年の採集記録をまとめて報告しており、今回で21回目となる。


■ 4月10日(日) 犬山市今井のギフ

 犬山のギフなんて地元名古屋では超有名のはずだが、実のところ詳しいポイントを知らない。尾張パークウエイを走ると道の両側に広大な自然林が残されていて、ギフなんてどこにでもいそうな気がしてくる。地形図を広げると、記録をよく見かける今井周辺になだらかな丘陵地が広がっており、その真ん中をいい感じで高圧線が走っている。まずは、楽勝!と、ここに狙いを定める。

 そうはいうものの、何の当てもない場所より少しでも当てのある場所から攻めたいのが人情なので、まずは以前に採ったことのある次のマップの①に立ち寄る。この場所では2008年4月6日に2♂採集している。その時は車で走行中に道路脇を飛ぶのを発見したもので、採集した2♂以外にも数頭目撃している。しかしながら、今回は立ち寄った時間が朝9時でまだ日当たりが悪く、環境的にもいまいちで全く飛ぶ気配がなかった。

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 次に本命の②③へ。峠付近に車を停めると、さっそく道ばたでカンアオイが見つかる。天気も申し分ない。付近の桜はほぼ満開で時期もバッチリ。採る前から楽勝気分。ところが、登ってみると②③とも全くギフの姿なし。③では採集者がやって来たが、ギフが来ないのでは始まらない。

 保険のつもりの①がダメで、期待していた②③がともに空振りとなると、早くも焦り始める。車で付近を右往左往した結果、東大演習林方面を探すことにする。しかし、その前にどうも高圧線が気になるので、愛知用水の近くに車を停めて④を覗いてみたら、マツが多くて乾燥気味でいまいちの雰囲気ながら、とりあえず1♂採れた。

 次に、チェーンの張ってある東大演習林入口をちょいと失礼して、徒歩で入らせていただく。入って間もなく右へ分かれて尾根へ登っていく小径があり、これを行く。少し登ると尾根に出るが、暗い尾根道でサッパリ。めげずにもうしばらく行くと、Y字にぶつかったところで一気に明るい環境になった。右手はツツジが多く少々日当たりが良すぎる感じで、奥のほうで1♂のみ。左手は絶好のロケーションなのにポツポツ程度で少ないなあと思ったら、2人連れの採集者がいた。この2人がさらえた後だったかもしれない。そのうちの1人は名古屋昆虫同好会の創設メンバーの一人とおっしゃるご年配で、「ここは穴場だぞ。よく見つけたな」と大先輩からお褒めにあずかったが、いくら穴場でもこんなに少なくてはどうしようもない。ここが図の⑤。

仕方なく車へ戻る途中、道路脇で何やら山菜を摘んでいるブルーネットの採集者を見かける。まだ昼前で絶好の天気だというのに、こんなに少なくては嫌気が差すのも無理ないですねえ、御同輩。と半ば同情して声をかけると、わざわざ東京方面からお見えで、ギフはもう沢山採ってすっかり満足したので今晩の酒の肴にアケビの芽を採っているのだと言う。

 これはアカン。遠路東京から来た人が飽きるほど採ったというのに、地元民がこのザマ(この時点で雅恵と二人で4♂)では笑われる。気合を入れ直し、冷静に考えた結果、本命と目した②へもう一度行くことにする。朝方nullだったのは時間が早すぎたせいではないか? ― 思った通り、誰かがさらえた後に違いない午後の時間帯で、まだ何とかポツポツ採れた。

 地図上で目星を付けた場所が正解だった! 穴場を見つけた! 時期も天気もバッチリで充実した一日だった! ― ただの負け惜しみ。採集者の多い場所はこれだからキライよ。ふん。

[記録]4月10日(日) 同行者 雅恵

愛知県犬山市今井 ギフ 8♂(内2♂雅恵採集)

 


■ 4月17日(日) 中津川市茄子川のギフ

 東濃地方の主なところでは、まだ旧市町村の中津川市を採っていないことが気になっていた。当地は随分以前に吉岡氏のポイントマップが蟲だより載っており、いつか行こうと思っていた。

 中津川市は車でしょっちゅう通っているが、いつも中央道や19号を通り過ぎるだけなので、迂闊にも近年の変貌ぶりに気付かずにいた。誰が言い出したのか東濃遷都などというトチ狂ったような計画があるくらいで、どこにでもある田舎の小都市と思っていた中津川市が、いつの間にか賑々しく発展を遂げていた。

 ギフのポイントは恵那山の山麓に位置し、付近一帯は伏流水が地上に湧水となって現れた場所に湿地が形成され、かつてヒメヒカゲやゴマシジミを豊産したと聞く。今では大部分が造成され工業団地と化してしまったが、一角にはまだ良好な里山環境が僅かながら残されている。今回のポイントはかつて別荘地として開発された跡地で、放置され荒れ果てた道路が痛々しい。かつて別荘地開発というと自然破壊の典型のように思っていたのに、皮肉なもので別荘地以外の場所が開発し尽くされ植林し尽くされた結果、別荘地にだけかろうじて自然林が残されているという、笑えない笑い話のような事例をよく見かける。地形図を広げると別荘地や別荘地跡には山中に網の目状に道路がへばりついているのでよく目立ち、最近私はこうした場所を狙って採集に行くことが時々ある。

 さて、適当な場所に車を停めて身支度を始めると、いきなりギフが飛んできた。その後も立て続けにやってきて、身支度を終えるまでのあっという間に3♂採集。これは調子いい。今日は忙しくなりそうだ。そう思いながら、たった3♂でもう余裕をかまし、その場に雅恵を残していつものように周辺へ探しに行く。

 少し登っていくと左手にゴルフ場が現れ、さらに行くがギフの姿はない。今にもギフが飛び出してきそうな雑木林の中の道を、あちこち探し回るがなぜかギフは現れない。こうなると早くも煩悩(ぼんのう)が頭をもたげ、今ごろ雅恵はもう沢山採っているだろうな、やっぱりさっきの場所が良かったかなと、結局すぐに元の場所へ戻ってしまった。

 ところがどうしたことか、雅恵は退屈そうにしていて全然来ないという。はて? 今度は道を下へ降りていったところ、路上で日光浴する1♂を追加できたが、結局それっきりだった。10時から11時ごろまで1時間ほどやったが、最初の3分で3♂採ったときは今日はいったいどうなることかと思ったが、別にどうもならなかった。

 ポイント下の集落周辺でシダレザクラが満開だったが、ポイント付近の木々の芽吹きはやや浅く、発生初期という気もした。もっとも、カンアオイはごく一部でしか見出せず、ギフの発生数そのものが少ないかもしれない。

 最近、ギフを採りに行ってもギフはおろかコツバメ、ルリシジミ、ミヤマセセリといった定番の名脇役たちさえさっぱり姿を見せないことが多いが、この日は久々にミヤマセセリやコツバメが多くて楽しませてくれた。良好な里山環境が残されていることの証しと思われるが、しかし、この場所もすぐ目と鼻の先にまで住宅地が迫ってきており、風前の灯とも思えた。今度またいつの日か来たときにも、ギフやミヤマセセリやコツバメたちは変わらず私を迎えてくれるだろうか。

[記録]4月17日(日) 同行者 雅恵

岐阜県中津川市茄子川青木 ギフ 4♂

 


■ 4月17日(日) 豊田市浅谷町のギフ

 当地は前年4月11日で3♀採集で、時期的に少し遅かった。ならば今日は4月17日なので完全に遅いと思って中津川へ行ったのだが、予想したほどは季節が進んでおらず、もしやと思い直して浅谷へ転戦した。

 移動に予想以上に時間を費やし着いた時点で正午を回っていたが、目星を付けてあった尾根へ迷わず登る。ここは麓の小さな伐採地で前年1♀を得ているのだが、たった1年で伐採地は身の丈を超すブッシュと化していた。それでも尾根で何とか3♂を得た。1♂完品、他の2♂もまずまずの鮮度で、予想した「完全に遅い」状態でなくホッと安心。また、ここでも非常にミヤマセセリが多かった。

 次に、前年1頭目撃した発生地と思われる場所へ移動。しかし、採集者が一人頑張っておられたのであきらめて他へ行こうとしたら、蟲の会のK氏だった。氏は朝からここで粘って結構な成果だったらしい。日曜日というのにこれから仕事へ行かれるとのことでポイントを譲ってくださり、ここで1♂2♀を追加。雅恵も別の場所で2♀と、午後からとしてはまずまずの成果となった。

[記録]4月17日(日) 同行者 雅恵

愛知県豊田市浅谷町(旧旭町浅谷)ギフ 4♂4♀(内2♀雅恵採集。2♀未交尾)

 


■ 4月24日(日) 旧坂下町のギフ探索

 先週、中津川市を落としたので、東濃で最近採れている市町村の中ではいよいよ旧坂下町が残ってしまった。旧坂下町は下外で1985年4月29日に卵を採集しているが、成虫は採ったことがない。その後2004年に1回と2006年に2回探しに行っていずれも惨敗に終わり、その都度、蟲だよりに報告している。

 この日は、以前から気になっていた高峰山(標高945m)の東-北麓を探すことに決めていた。高峰山は中津川市と旧坂下町の境に位置し、南半分は中津川市、北半分が旧坂下町で、ギフの記録どころか他の蝶の記録も皆目見たことがない。しかしながら、この地方にあっては珍しいほど開発の進んでいない山で、地形図を広げると耕作地もなければ植林もあまりされていない様子が見てとれる。開発されていないのに蝶の記録のない山。謎の山である。さらには、東側斜面には前述の別荘地跡のようなものも見いだせる。また、かつて卵を採集した下外もこの山のすぐ北東に位置する。こうして考えると、もしかするとこれは宝の山かもしれない…。

 行ってみて驚いた。かなり驚いた。やっぱり行かないと分からないことってあるものだ。山腹に刻まれた道路が未舗装なのは当然としても、「なんちゃってオフロードカー」の日産Ⅹ‐TRAILでは、よっぽど注意深くゆっくり進まないとパンクしてしまいそうなほどガレた道だった。砂利が敷いてあるとかではない。外見上は山全体が樹林に覆われているが、実は物凄いガレ山なのだ。行けども行けどもガレガレの、ナイフみたく尖った大きな石がゴロゴロしている道が延々続き、車を運転しているだけで疲れてしまう。その昔は開墾することもままならず、今で言えばゴルフ場開発にも適さない、保水力に乏しい正に瓦礫の山のような山だった。とてもギフなど棲めそうにないと思った。

[記録]4月24日(日) 同行者 雅恵

岐阜県中津川市(旧坂下町)各地 ギフ null

 


■ 5月3日(祝) 大野町寺月峠のギフ(パート1)

 寺月峠のギフは、前年は午後から行って採集者の多い中を4♂採集しており、今度こそ朝から行ってガッポリ採って卒業しようという魂胆。前年は4月25日で多少遅めに感じた。今年は残雪が多いので時期の見極めが難しかったが、現地に着くと時期的にはバッチリの雰囲気で、しかも採集者はいない。しかしながら、いかんせん天気予報が外れて全く日照のない一日となり、待てど暮らせど全然飛ばず。かろうじて1♂採ってnullを免れるという寂しさ。

[記録]5月3日(祝) 同行者 雅恵

福井県大野市寺月峠 ギフ 1♂

 


■ 5月4日(祝) 大野町寺月峠のギフ(パート2)

 この日は、前年5月1日にボロをつかまされた大山林道へリベンジに行くつもりで前夜は山中温泉の豪華ホテルに宿泊、というのは真っ赤なウソで、山中温泉道の駅で車中泊。前日に寺月峠へ行ったのは、あえて前年と同じ場所へ行ってこの日のために時期を確かめておこうという狙いもあった。

 どうやら時期は問題なさそう。天気もバッチリ。嬉々として大山林道へと車を走らせる。が、な、何と、はるか手前の山に差しかかった付近で、国道の頑丈そうなゲートが行く手を塞いでいた! いくらド田舎の「酷道」級の国道でも何せ国民の血税で管理している国道なのだから、道路交通情報を調べれば通行止め情報くらい事前にキャッチできたはずなのに、まさかの手抜かり。

 ♪そして、僕は、途方に暮れる…。♪

 この日の晩は白山一里野温泉に宿の予約が取ってあり、あんまり見当違いの場所へは転戦できない。と言うか、他にどこへも行く当てがなくなってしまい、結局のところ前日の寺月峠へ舞い戻ることとなる。 ― どうせ私は芸無しの能無しの情報無しですけど、それが何か?

 とんだムダ足で寺月峠着は11時過ぎ。挙句の果ては一番美味しいポイントを地元福井ナンバー氏に押えられてしまっていた。それでもこの日は天気が良くなり、こんな時間からでも5♂の収穫があったのだから、まずはよしとしよう。

[記録]5月4日(祝) 同行者 雅恵

福井県大野市寺月峠 ギフ5♂(内1♂雅恵採集)

 


■ 5月5日(祝) 白山市白抜山のギフ(パート1)

 ここも前年5月3日にポンポロをつかまされて辛酸をなめた場所だ。1年越しのリベンジといきたいところだが、東二口の林道入口に着くと、な、何と、チェーンが張ってある!のは前年で織り込み済みで、そうではなくって昨日の寺月峠と同じ福井ナンバーのRAV4が停まっている!「ちょっと、ちょっと、行く先々で邪魔しないでくれる?」と言いたいところだが、きっと向こうこそ思っているに違いない。「あんた、オレの後をつけてるのか?」でも、地元氏が来ているということは、心配していた時期は間違っていないってことだ。安心して歩き始める。

 少し行った杉林の中で、杉の幹に絡まるように飛ぶ2羽のカラスを発見。よく見ると、杉の幹の上のほうに何か動物がしがみついている。と思った瞬間、飛んだ! 四肢の皮膜をいっぱいに広げ、ムササビが真っすぐこっちのほうへ向かって滑空した。飛び移った先の幹でもカラスのちょっかいを受け、エッサ、エッサ、エッサと上へ上へと逃れ、もう一度飛んだ。今度こそ茂みの中へ潜り込み、何とかカラスの追撃から逃れた。

 ムササビは思った以上にかなり大きく、肉厚で質感があり、小さめの座布団がビューンと飛んでくる感じだった。以前、富士山麓の山中湖近くでムササビウォッチングのツアーが企画されていたが、当然夜中で、観られるかどうかは日ごろの心がけ次第ということだった。しかしこの日、私は目の前でモロに観た。それも白日の下で。よっぽど日ごろの心がけが良いのだろう、と言いたいところだが、実はこれでこの日の運を使い果たすことになろうとは…。

林道両側の雪の壁
林道の両側には1m以上の雪の壁が…

 ポイント付近まで登ってくると、日当たりの悪い杉林の中では林道の両側にまだ1m以上の雪の壁ができていた。すると上から福井ナンバー氏が降りてきて、「いや、まいったよ。この残雪じゃあ、まだダメだねえ」とか何とか言い残して帰って行かれた。

 「ウッソー、あんたが入っているから安心して登ってきたのに、そりゃないだろう」とか思う一方で、「ウッシッシ。これで独り占めだぜ」とか心の片隅で思っている自分がいた。

 前年見つけたマイポイントはまともに日の当たる南東向き斜面で、そこだけほぼ雪がなかった。そのちっぽけなポイントにかろうじてギフは発生していたが、その場を少し離れると他は残雪だらけで未発生と思われた。

[記録]5月5日(祝) 同行者 雅恵

石川県白山市(旧尾口村)白抜山 ギフ 3♂(内2♂雅恵採集)

 


■ 5月7日(土) 白山市白抜山のギフ(パート2)

 私は後悔していた。どうしてこんな残雪だらけの場所へ、たった2日後に再び来てしまったのだろう。もう少し雪が解けているかと思ったのに、全然変わっていなかった。おまけにちっぽけなマイポイントの斜面は、午前中恐ろしいほどの強風が吹き抜けていて全くお話にならない。それでも風が凪いだ午後には、雅恵が未交尾♀を採った。こんなに残雪だらけでも、場所によってはもう♀が羽化している。残雪の多い年の雪国のギフは、何回やっても難しいと感じた。

[記録]5月7日(土) 同行者 雅恵

石川県白山市(旧尾口村)白抜山 ギフ 1♂1♀(内1♀未交尾 雅恵採集)

 


■ 5月8日(日) 大野市(旧和泉村)羽見谷のギフ

 羽見谷のギフは「権化顔」とかなんとか聞いたことがあるが、そんなことにはあまり興味がない。それよりも、羽見谷はⅤ字渓谷のようなところで、あんな場所にギフがいるということ自体に興味をもった。

 以前、ゼフ採りに入ったときに、ギフがいるならあの辺りだろうと目星をつけてあったが、行ってみると思ったとおりカンアオイがパラパラ程度だが見つかった。しかし、新しい林道が造成されていて、以前の環境を知らないのでなんとも言えないが、もしかするとかなり環境が破壊されてしまったかもしれない。いずれにしても、カンアオイは見つかったもののギフの姿は当然のようになく、あんまり採れそうな気がしない場所だった。

 帰り支度をしているときに、そういえば小川のほとりにコゴミがズクズクに生えていたのを思い出し、雅恵を車で待たせて1人で採りに行った。欲の皮をつっぱらせて、念のためと称してネットを片手に持って…。

 コゴミ採りに夢中になっているうちに、そこら辺に放り出しておいたネットをうっかり忘れて帰った(らしい)。20年近く愛用した志賀のシバキ棒を失くしてしまった、という問題ではなくって、山にゴミを散らかしてくるなって、このバカ者! それも虫屋の仕業と丸分かりじゃないか。そのうえ気付いたのが1か月も経った6月3日の夜、翌日の準備をしていて、ブルーネットがない! シバキ棒がない! ない!ない!ない! と騒いで、多分そういうことだろうと、やっと気付いた。この大バカ者。

[記録]5月8日(日) 同行者 雅恵

福井県大野市(旧和泉村)羽見谷 ギフ null

 


■ 6月4日(土) 富山市(旧大山町)有峰 猪根山周辺のギフ

 今年は残雪が多いので、有峰林道が開通したこの時期でもまだ間に合うと踏んで久々に有峰へ出かけた。前回行ったときにはまだカーナビが付いていなかったけれど、特に道に迷った記憶はない。それが「バカーナビ」に頼った今回は、神岡から飛越トンネルまでの間の道で迷いに迷い、有峰ハウス横の猪根山の登り口に着いた時には10時を回っていた。

 焦って登って15分ほどで山頂へ着いたら、先客が陣取っていてがっかり、と思いきや、いつもお世話になっているW氏夫妻だった。夫妻は朝からやっていて、結構な成果だった様子でポイントを私に譲ってくださった。さすがにさらえた後かと思ったが、それでもポツポツ上がってきた。

 昼過ぎには反対側へ下り、バーベキュー場付近で2♂を追加。この後、猪根谷方面まで足を伸ばしたが、これといった場所が見つからなかった。

[記録]6月4日(土) 同行者 なし

富山市(旧大山町)有峰猪根山 ギフ 1♂2♀

富山市(旧大山町)有峰猪根谷 ギフ 2♂(内1♂ボロリリース)

 


■ 6月5日(日) 富山市(旧大山町)有峰林道真川線のギフ

 「真川」の記録は以前にも見たことがあり、そこで折立から真川沿いに上流を探索したことがある。地形図上も真川の上流左岸に良さそうな地形があり、行ってみると見事ミズバショウの咲き誇る湿原を見つけ、やったー!と一瞬喜んだが結局ギフは現れず、カンアオイも見つからなかった。

 「みやくに通信」に、宮国氏の真川林道のマップが載ったのを見つけた。何と、折立から真川を下流へ攻めていた。地形図を広げると、やはり上流には美味しそうな場所が目白押しなのだが、下流はサッパリだ。「みやくに通信」のマップには「×」マークはなく、要するに折立から真川林道を2時間ほど歩いた付近にポイントがあるということしか分からない。真川林道は一般車両通行止めなので歩くしかない。地形図上は見当がつかないので、2時間歩いたうえに、さらにあてもなくポイントを探し歩くことになる。

 3月頃、宮国氏ご本人と飲む機会があった。この件に水を向けてみると、「行ったら分かるよ」とのこと。行ったら分かるとまで言われて、ポイントが分からないから行きませんでしたでは、あまりに情けない。これは行くしかないだろう。

 そんなこんなで折立を7時10分に歩き始める。ハイペースで飛ばしたため1時間20分ほどの地点で、あっさりポイントを見つけた。「行ったら分かるよ」という言葉の意味が、「行ったら誰でも分かるよ」ということだったと、行ったら分かった。

ポイント真ん前の路上の問題のブツ
ポイントの真ん前の路上に残された問題のブツ

 しかし、ここで由々しき問題が発生した。ちょうどポイントの真ん前の路上に残された写真のブツである。比較のために置いたネットは50cm口径。この「大物」は、言わずもがなのツキノワ君の落し物に違いない。まだ、今さっきしたばかりのような新鮮さで、湯気こそ立っていないものの、一緒にたれたシッコの流れた跡が生々しい。

 しかし、ここで逃げ帰ったら男がすたる! というのではなくて、欲と道連れなので本当に怖い目するまでは平っ気。とりあえず思いっきりホイッスルを吹いてみて、クマ避けスプレーをお守りのように左手首に装着し、クマ鈴を大袈裟に鳴らしながら歩いた。

 ポイントはブナを主要構成樹種とする落葉広葉樹林で、林床にカンアオイがあり、疑いもなく発生地である。9時過ぎからポツポツ観られたが、なぜか林の外へ出てこないので中へ入っていくと、ブッシュが邪魔して意外に採りづらい。それも、10時半の未交尾♀を最後にぱったり飛ばなくなってしまった。晴れ時々曇りの天気ながら薄雲が広がりやすく、ブナ林の中は木漏れ日しか当たらないのでギフは不活発のようにも感じられた。この日は12時までと決めていたのでとりあえず昼までは頑張ることにするが、歩き回っても全く観ない時間帯が1時間も続き、さすがに少々ダレがきた。

 11時半ごろだった。いつの間にかブルーシートに絡んでいて、気付くのが遅れて逃げられた。このころから再びポツポツ飛び始め、12時に帰る直前になって急に活気が出てきた。後ろ髪を引かれながらも自分との約束だったので12時には撤収したが、どうして昼前になって急に再び飛ぶようになったのか理由が分からない。こういう経験は今までないように思う。気温が上がって活動が活発になったというわけではなく、交尾が解けて活動を再開した可能性を疑うが、考え過ぎだろうか。

[記録]6月5日(日) 同行者 なし

富山市(旧大山町)有峰林道真川線 ギフ 6♂2♀(内1♀ボロリリース。1♀未交尾)

 


■ 6月18日(土) 金沢市医王山のフジミドリ

 医王山はゼフの宝庫として知られ、いつか行ってみたいと思いつつ10年ぐらいが経ってしまった。どうせ行くならフジかダイセン狙いと思ったが、どちらも経験が乏しいため時期の見定めが難しい。ゼフは残雪の多いことはあまり影響ないだろうと予想して、ほぼ例年並みのフジの時期と思われるこの日を選んだ。

 さて、当日は山へ差しかかるとあいにくの小雨が降り始め、上へ行くほどにガスがひどくなった。物凄い濃霧に視界を閉ざされ道が見えない。視界5mほどともなると、どんなに徐行しても車の運転は危険と言うより不能である。道がカーブしているのが分からず、目の前にガードレールが現れてようやく気付く。そんな濃霧の中、突然車の直前を大きな蝶の影が横切った。シルエットだけだが、アサギマダラのような気がした。こんな霧の中では右も左もどころか、上も下も分からないだろうに…。

 それでも昼頃にはだいぶガスが薄くなってきたので、止んでくれない小雨の中を、車で徐行しながらあちこち下見して回った。フジの成虫ポイントとしては、尾根道に手ごろな樹高のブナ林は1か所しか見つからなかったので、そこがポイントに違いないと勝手に決めた。

 3時ごろだった。朝から降り続いた小雨がいつの間にかあがり、同時に、あんなにしつこかったガスも一気に消えた。計ったかのように、フジがテリを張る舞台がいきなり整った。朝から悪コンディションのため車の中でふて寝を決め込んだりしていたが、あまりの出来すぎたシナリオに、アドレナリンがドッと出そうな気配を感じていた。間もなく始まるであろうフジの乱舞を固唾を呑んで待っていると、いよいよ始まった。おびただしい数のキンモンガの乱舞である。観たくもないぜ、こんなもの。失せろー!

 そして、待てど暮らせどフジは飛ばず。未練たらしく2時間近く付近をうろついたが、遂に1頭のフジも観ることはなかった。

[記録]6月18日(土) 同行者 なし

石川県金沢市・福光市医王山 フジミドリ null

 


■ 6月19日(日) 神通峡のヒサマツミドリの下見

 フジは未発生らしい。ならば、ゼフはすべて未発生ということだ。この時期、まだギフ狙いでもよかったかも、と今さら後悔しても後の祭り。気分はゼフモードになってしまっているので、仕方なく神通峡のヒサマツ様のお住まいでも訪ねてみることにする。神通峡と言えば、かねてからヒサマツの成虫がかなりの数採れているようで、一度行ってみたいと思っていた。

 暖地性のウラジロガシがこんな雪国で成育しているとすれば、当然に川沿いの温暖な場所だろう。落葉広葉樹林が広がる中に常緑のカシ類が生えていれば、この季節でも結構目立つはずだ。ということで、今回はいつも持ち歩いている双眼鏡が重宝した。これがあれば対岸の斜面の広い範囲を舐めるように探索できる。しかし、朝っぱらから適当にいくつかの谷に入り込み、双眼鏡を覗き込んで探し回ったものの、常緑のカシ類なんてただの1本だって見つかりはしない。代わりにやたら目立つのは、真っ赤に焼けただれたようなナラ枯れであった。猛烈にナラ枯れが広がっている様子を観ていると、ヒサマツには関係ないと思っても、何だか無性に焦りの色が濃くなるのを覚えた。

 ここで安直にも、先ごろまで富山に住んでいて、最近結婚して高山に引っ越したという蟲の会のM君に電話してしまった。

「結婚したんだって? おめでとう。ところで、いま神通峡に来ているんだけど、ヒサマツのポイント教えて」

 これだから虫屋は非常識と言われるわけだ。「ところで…」の後に続くフレーズは、世間の常識では「お祝い贈るから住所教えて」だろうが。でも相手も虫屋だから虫屋の常識で大丈夫、という勝手な解釈で、ヒサマツのポイントだけ教えてもらっていまだにお祝いは贈っていない。

[記録]6月19日(日) 同行者 なし

富山県富山市(旧婦負郡細入村-上新川郡大沢野町) ヒサマツミドリ null

 


■ 7月21日‐23日(土) キナバル山周辺(東マレーシア)

 以前は毎年のようにというか必ず毎年行っていたマレーシアへ、4年ぶりに行った。勤続25周年の褒美に、たった3日間のリフレッシュ休暇をもらってこれに夏季休暇をくっつけて行ったのだが、久しぶりの海外の採集で、思った以上にかなりリフレッシュできた。

[記録]7月21日(木)-23日(土) 同行者 雅恵ほか総勢5名

東マレーシア サバ州 キナバル山周辺

ボルネオキシタアゲハ1♀観察、キナバルミカド3♂、ボルネオカザリシロ1♂2♀、キナバルカザリシロ3♂、ペルキダマネシジャノ2♂、アモエナコジャノメ1♂1♀、アミサコイナズマ2♂、キアナウラフチベニシジミ4♂1♀、ほか、正味3日間で195頭採集。